チューリップ賛歌 登場人物 ひとかた1 ひとかた2 ひとかた3 弾丸男 物置屋 笑い上戸 1   ここは世界の果てへ行く途中。ひとかた達、野宿の用意。ひとかた3が夕飯の用意をしている。ランチョンマットを敷いたり、皿  を並べたり…   ひとかた1・2、一生懸命何かをしている。 ひとかた3 ひとかた、ご飯だよ。   しかし返事はない。 ひとかた3 ひとかた。 ひとかた1 (2に)ひとかた呼んでるぞ。 ひとかた2 (1に)お前をな、 ひとかた3 ひとかた。 ひとかた2 ひとかたって? ひとかた1 俺たちのことでしょ。 ひとかた3 そうそう。 ひとかた2 具体的に何なんだよ。 ひとかた1 (2に)無いのか? ひとかた2 何が? ひとかた1 学習能力。       ほら、前にも言っただろう? ひとかた2 何を? ひとかた3 ほら、あれだよ。 ひとかた2 どれ? ひとかた1 俺達は人間じゃないの。ま、人間の形してるけど… ひとかた3 そうなんだぁ。 ひとかた2 をい? ひとかた3 さ―、ご飯ご飯。 ひとかた1 (3に)ひとかた、今日の晩御飯は? ひとかた3 聞きたい? ひとかた2 いいよ、どうせ「眉毛ボーン」だろ? ひとかた3 あたり! ひとかた1 またそれか、 ひとかた3 美味しいよ。「眉毛ボーン」 ひとかた2 美味しくても、飽きたの。 ひとかた1 しょうがないか、それしかないんだし。 ひとかた2 拾ってこようか。 ひとかた1 いいだろ。そんなことしなくても。 ひとかた3 さ、食べるよ食べるよ。   三人、席に着く。 ひとかた2 飽きたなぁ。 ひとかた1 贅沢言わない。 ひとかた3 いただきまーす。   ひとかた達、飯を食らう。 ひとかた2 (1に)そういや見つかった? ひとかた1 まだ、 ひとかた3 まだかぁ。 ひとかた2 この辺なんだろ? ひとかた1 そりゃそうだ、看板だって立ってるんだし、   奥のほうに「世界の果て、すぐそこ」という看板が立っている。 ひとかた1 食べたらみんなで行ってみるか? ひとかた3 僕パス ひとかた2 俺も、 ひとかた1 なんでだよ。 ひとかた3 僕、皿洗い。 ひとかた2 俺、昼寝。 ひとかた3 じゃあ、僕も昼寝。 ひとかた1 行くぞ。 ひとかた2 やだよ。面倒くさいし、うちに帰りたい。 ひとかた1 ガキみたいなこと言ってないで、 ひとかた3 それより、愛がほしい―。 ひとかた2 女がほしい―。 ひとかた1 うるさい。 ひとかた2・3 はい… ひとかた1 行くったら行くの。分かった? ひとかた2・3 はい。 ひとかた1 じゃあ、行くぞ。 ひとかた2 と、その前に ひとかた1 また昼寝って言うんじゃないだろうな。 ひとかた3 (1に)忘れないように。 ひとかた1 何を? ひとかた3 手紙。 ひとかた2 そうそう。じゃ、はじめるよ。   ひとかた達、手紙を読み始める。 ひとかた達 世界の果てへ、世界の果てさんお元気ですか?   音楽。目くるめく景色の中、ひとかた達が立っている。ひとかた達、世界の果てへ手紙を読み続ける。恐ろしいスピ―ドでそれで  も読み続ける。 ひとかた1 世界の果てへ行くと、彼女は出て行った。 ひとかた3 彼女を追いかけて、僕らも出て行った。 ひとかた2 出て行くことは面倒くさいから。 ひとかた3 出て行かないことは恐ろしいから。 ひとかた1 いつもいつも一歩を踏み出すためのきっかけを探していた。 ひとかた2 それが彼女だった。 ひとかた3 彼女は世界の果てへいけただろうか? ひとかた1 世界の果てのその先へいけただろうか? ひとかた2 そして俺達は、どうだろうか? ひとかた1 世界の果ては見つかるのだろうか? ひとかた2 時々思う、 ひとかた3 出て行かずに布団に包まっている事を ひとかた1 それでも俺達は行かなきゃならない。 ひとかた3 確かに僕達は行かなきゃならない。 ひとかた2 だから俺達は叫び続ける ひとかた達 世界の果てさん、お元気ですか?   短い暗転   3日後…世界の果ての道の途中。ひとかた達、なおも歩いている。 ひとかた2 なあ、ひとかた ひとかた1 何だい?ひとかた ひとかた2 あれから、どんくらい歩いた? ひとかた1 まる三日だろ?もう30キロは歩いてるんじゃないか? ひとかた3 「すぐそこ」って言ったの誰だよ。 ひとかた1 俺じゃないって、 ひとかた2 お、看板。 ひとかた3 (期待して見て)またか… ひとかた2 これで何度目? ひとかた1 10回は見ている。 ひとかた3 10回も「すぐそこ」かぁ ひとかた2 いい加減この道も飽きたなぁ。 ひとかた1 ずっと一本道だからな。 ひとかた3 ねぇ、世界の果てってどんなところかな。 ひとかた2 いつもいつも、唐突だな。 ひとかた3 仕方ないでしょ。退屈なんだから。 ひとかた2 退屈だな。 ひとかた1 花の境界線らしいぞ、 ひとかた3 え?花? ひとかた1 花が一本の線を作っているらしい。 ひとかた2 なんで、そんなこと知ってるんだよ。 ひとかた1 そりゃ…本で読んだから。 ひとかた2 なんだよ、今の間。 ひとかた1 なんでもない、なんでもない。 ひとかた3 世界の果てかぁ。 ひとかた1 なんだ、面白くないような声だして、 ひとかた3 魑魅魍魎は? ひとかた2 なんだ、それ? ひとかた3 化け物。 ひとかた1 化け物がいたら面白いのか? ひとかた3 多少はスリリングかと ひとかた2 勘弁してくれよ。 ひとかた3 じゃあ、愛。 ひとかた2 俺は、かわいい女の子がいっぱいいたらいいな。 ひとかた1 残念でした。どちらも売り切れ中です。 ひとかた2 じゃあ、一人でいい。 ひとかた1 そういう問題か? ひとかた3 お腹すいたぁ。 ひとかた1 飯にするか? ひとかた2 賛成! ひとかた3 じゃあ、例のやついくよ! ひとかた2 よ―し、最初はグ― ひとかた1 ちょっと待った。   ひとかた1、勝利の踊り。 ひとかた2 何やってんだ? ひとかた1 勝利の踊り。 ひとかた3 僕もやろっと。 ひとかた2 俺も、俺も。   三人、勝利の踊り。ひとかた1、最初にそれを終えて、手を望遠鏡のようにして何かを見る。 ひとかた3 何を見てるの? ひとかた1 希望。 ひとかた2 希望か。 ひとかた3 それは、世界の果てにあるかな。 ひとかた1 あるといいな。 ひとかた2 あるといいな。 ひとかた3 お腹すいた。 ひとかた1 じゃ、やるか! ひとかた2 最初はグ―、ジャンケン 三人    ポン!   ひとかた2、負ける。ひとかた1・3は勝利の踊り。 ひとかた2 ったく、仕様がないな。 ひとかた1 お疲れさん。 ひとかた2 今日も、「眉毛ボ―ン」でいいな。 ひとかた3 え―!飽きたぁ。 ひとかた2 お前なぁ! ひとかた1 まあまあまあ。 ひとかた2 ドチクショウ。 ひとかた1 俺、ちょっと散歩してくる。 ひとかた3 じゃあ、僕も、 ひとかた2 迷子になるなよ。 ひとかた3 大丈夫だって。   ひとかた1・3、散歩に出かける。 ひとかた2 じゃ、はじめるか。   ひとかた2、食事の準備。 弾丸男   ドキュ―ン! ひとかた2 ななな、何だ!? 弾丸男   空けてびっくり玉手箱!弾丸男デ―ス! ひとかた2 弾丸男? 弾丸男   そうデ―ス。弾丸男デ―ス! ひとかた2 あ、そ。(と、食事の準備) 弾丸男   待ってください! ひとかた2 何? 弾丸男   腹、減りました。 ひとかた2 あ、そ。 弾丸男   恵んでくだサ―イ。 ひとかた2 やだ。 弾丸男   つれないですね。 ひとかた2 あのね、お恵みしてあげたいのは山々だけれども、こっちも大変なのよ。不況でね。       会社は倒産するわ、借金取りに追われるわで… 弾丸男   もういいです。 ひとかた2 もういいんだ。(と、食事を差し出す) 弾丸男   え? ひとかた2 これだけで、いいんだろ。 弾丸男   充分の反対の反対の反対です! ひとかた2 もっと、簡潔に言えよ! 弾丸男   不十分です。 ひとかた2 ならやらない。(と、食事の準備) 弾丸男   腹、減りました。 ひとかた2 だから、やるって! 弾丸男   食べられません。 ひとかた2 何が、 弾丸男   それ、言葉でしょ? ひとかた2 見たら分かるだろ? 弾丸男   しかも、かなり低俗な、 ひとかた2 …本当に恵んで欲しいのか? 弾丸男   もちろんデ―ス! ひとかた2 どうしたいんだよ。 弾丸男   食べ物、分けてください。 ひとかた2 だから 弾丸男   憤りです。 ひとかた2 憤り? 弾丸男   ワタシ、憤りを食べています。 ひとかた2 腹、壊さない? 弾丸男   大丈夫デ―ス。 ひとかた2 どうするの? 弾丸男   世界の憤りを食べています。世界に向かって、憤ってください。 ひとかた2 世界に向かって? 弾丸男   砕いて言うならば「コンチキショ―」です。 ひとかた2 コンチキショ―? 弾丸男   そうです。世界に向かって、憤ってください。 ひとかた2 そんな急に憤れといわれてもなぁ。 弾丸男   一人の哀れな男を助けると思って頑張ってください。 ひとかた2 頑張るには頑張るけどよ。   ひとかた2、憤り始める。 ひとかた2 戻ってこいよ!ミチコ!       もう、酒飲んで暴れたりしない!タバコも吸わない!だから戻ってこいよ! 弾丸男   耳が痛いです。 ひとかた2 なんて? 弾丸男   どうしてか分からないです。でも、耳が痛いです。 ひとかた2 どうすればいいんだよ。 弾丸男   頑張ってください。 ひとかた2 …分かった。       馬鹿ぁ!どうして出て行ったんだよ!       だから、浮気なんてしてないって言ってるだろ!浮気はばれるまでが浮気なんだ!       ばれたら浮気じゃないんだぞ! 弾丸男   (腹を壊す) ひとかた2 軽蔑するか?軽蔑してみやがれ!       いくら軽蔑されたって、いつだって、俺は相変わらずでい続けてやるからな!       どうだ、ザマ―ミロ!!       …こんなんで、どうだ? 弾丸男   あなたの人となりが分かるような気がします。 ひとかた2 うるさい。 弾丸男   残念ながら、ワタシの体にはあなたの憤りは合わなかったようです。 ひとかた2 じゃあ、どうすりゃいい。 弾丸男   精一杯でかい声で「コンチキショ―」と叫んでください。 ひとかた2 こ、こうか?       (あさってのほうに向かって)コンチキショ―! 弾丸男   世界の果てはどこにあるんでしょう。 ひとかた2 え? 弾丸男   あなたの憤りです。世界の果てはどこにあるのでしょう。 ひとかた2 あんた、世界の果てを… 弾丸男   知りません。       しかし、道を指し示すことなら出来ます。希望へと続く花の境界線へ続く道を ひとかた2 …知りたい。 弾丸男   では、行きましょう。   ひとかた2、弾丸男、去る。   しばらくして、ひとかた1・3散歩から戻ってくる。 ひとかた3 あ、サボってる。 ひとかた1 どこに行ったんだろう。 ひとかた3 きっとすぐに戻ってくるよ。 ひとかた1 そうだな。 ひとかた3 とりあえず、ご飯にしない? ひとかた1 よし、やるか。   ひとかた1・3、食事の準備。 ひとかた3 (準備しながら)ジャンケン、勝ったのに ひとかた1 (同様に)あいつのことだからな。 ひとかた3 (同様に)よくないよ。 ひとかた1 (同様に)何が? ひとかた3 (同様に)そうやって、許しちゃうの。 ひとかた1 (同様に)そうは言うけど、お前も、許されてるんだぞ。 ひとかた3 (同様に)何を? ひとかた1 (同様に)そうやって自覚してない事をだ。 ひとかた3 (同様に)そんなことないよ。自覚はしてる。 ひとかた1 (同様に)ならいいけどな ひとかた3 よし、出来た! ひとかた1 いただきます。 ひとかた3 (2に向かって)先にいただくよ、   ひとかた1・3、食事中。 弾丸男   ドキュ―ン! ひとかた達 な、何! 弾丸男   忘れ物を採りに伺いました。弾丸男デース。 ひとかた1 忘れ物? 弾丸男   忘れ物です。 ひとかた3 誰の? 弾丸男   それは、秘密です。 ひとかた1 あなた、ここに来たの? 弾丸男   それも、秘密です。 ひとかた3 来たんだね。 弾丸男   嘘に嘘を重ねると来たということになるでしょう。 ひとかた3 (1に)どういうこと? ひとかた1 つまり、来たってこと。 弾丸男   そうです。 ひとかた1 あの…ここらで、小太りの男を見かけませんでしたか? 弾丸男   見てなくもないです。 ひとかた3 見たんだ。 ひとかた1 どこへ行ったか、知りませんか? 弾丸男   世界の果て。 ひとかた達 え? 弾丸男   彼は世界の果てへ続く道の上にいます。でも、これはトップシークレットです。 ひとかた1 知っているんですね。 弾丸男   さ、用は済んだでしょう。忘れ物を捜します。       ありました。これです。 ひとかた3 何? 弾丸男   低俗な言葉です。 ひとかた1 あ、眉毛ボーン! 弾丸男   彼に飢え死にされては困りますから。       では!   弾丸男、すごい勢いで去る。 ひとかた1 ちょ、おい! ひとかた3 行っちゃったね。 ひとかた1 行っちゃったね。じゃないだろ! ひとかた3 お腹すいた。 ひとかた1 その食料が、持っていかれたんだよ!       行くぞ! ひとかた3 どこへ? ひとかた1 世界の果てに続く道の上のどこか! ひとかた3 ラジャ!   暗転 2   ひとかた1・3、歩いている。   世界の果てに続く道の上のどこか、   ひとかた3、ひとかた2の匂いをかぎ分けながら進む。 ひとかた3 うん。こっちで大丈夫。 ひとかた1 本当に合ってるんだろうな。 ひとかた3 信じられないんなら、来なくていいよ。 ひとかた1 いや、行く。 ひとかた3 あれ?ここで途切れてる。 ひとかた1 ホントか? ひとかた3 うん。多分、ここら辺にいるはずだけど。   ひとかた達があたりを散策していると物置屋がやってくる。 物置屋   (呟くように)もしもし、そこのあなた方。   ひとかた達、聞こえてない。   物置屋、ひとかた1の背後に立って 物置屋   もしもし、そこのあなた方。 ひとかた1 うわ!なんですか?あなた、 物置屋   何をお探しでしょうか。 ひとかた3 魑魅魍魎 ひとかた1 じゃなくて、人探しを 物置屋   そうですか。 ひとかた1 あなた、見てません?小太りの男なんですけど。 ひとかた3 顔色の悪い。 物置屋   ああ、それなら。 ひとかた達 知っているんですか? 物置屋   それはそうと、あなた方。 ひとかた1 小太りの男なんですけど。 物置屋   物置、要りません? ひとかた1 要りません。小太りの男なら要ります。 ひとかた3 物置? 物置屋   そうです。悲しみをしまっておくための物置。 ひとかた3 欲しい! ひとかた1 ダメ! ひとかた3 どうして? ひとかた1 どうしても。 物置屋   物置、一つですね。 ひとかた1 要りませんから。 物置屋   (1に)はい。どうぞ。 ひとかた1 要らないって。 ひとかた3 いいな―。 物置屋   (3に)あなたには必要ありません。 ひとかた1 俺にも必要ないですから。 物置屋   いいえ、あなたには必要です。あなたは、我慢強い人です。 ひとかた1 (皮肉)初対面で、よくそんなことがわかりますね。 物置屋   それ故に、悲しみの置き場所を間違えているわ。 ひとかた3 悲しみの置き場所って? 物置屋  悲しみの置き場所はあなたの心ではありません。よく考えなさい。 ひとかた1 ………… ひとかた3 考え中、考え中… 物置屋   物置はご要り用ですか? ひとかた1 小太りの男も必要だ。 物置屋   (嬉しそうに)ご要り用ですね。 ひとかた3 で、小太りで顔色の悪い男は?知ってる? 物置屋   ああ、その方なら。       弾丸男の導くところでしょう。んっふっふっ… ひとかた3 (1に)大丈夫かな。この人 ひとかた1 (3に)どうだろう。 物置屋   その物置、役に立つときが来ればいいですね。   物置屋、去っていく。 ひとかた1 不気味な人だなぁ ひとかた3 悲しみを置くための物置か。 ひとかた1 (開けようとして)鍵、かかってるぞ。 ひとかた3 意味ないじゃん。 ひとかた1 にしても、何かとても重要な事を忘れているような。 ひとかた3 小太りで顔色の悪い男。 ひとかた1 あ!       ちょっと!   ひとかた1、物置屋を追う。 ひとかた3 ひとかた、待ってー!   ひとかた3、ひとかた1を追う。   その逆方向から、ひとかた2と弾丸男が現われる。 ひとかた2 で、どこなんだよ。世界の果てへ続く道は。 弾丸男   ここデース。 ひとかた2 この先に行けば、世界の果てに着くんだな。 弾丸男   あなたが世界の果てに憤らなければ、 ひとかた2 憤る?どうして? 弾丸男   頑張ってください。 ひとかた2 あんたは? 弾丸男   あなたを見守ることにしマース。 ひとかた2 はいはい。 弾丸男   信じてクダサーイ。 ひとかた2 信じるも何も、弾丸男 弾丸男   初めて、ワタシの名前、呼びましたね。 ひとかた2 だから何なんだよ、 弾丸男   弾ちゃんでもいいですよ。 ひとかた2 弾丸男、あんたいったい何者? 弾丸男   弾丸男デース。 ひとかた2 だから、 弾丸男   それ以上でもそれ以下でもない。ただ、憤りを食べているだけの男です。 ひとかた2 本当に? 弾丸男   信じてクダサーイ。 ひとかた2 まあ、あんたがそう言うなら、 弾丸男   なんちゃって、なんちゃって、 ひとかた2 一生信じない。 弾丸男   待ってクダサーイ。       もう少しです。 ひとかた2 何が、もう少しなんだよ。 弾丸男   もう少ししたら、彼らが来ます。 ひとかた1(声) ちょ、待って! 物置屋(声) くっくっく… ひとかた1(声) だぁー!   ひとかた達と物置屋、やってくる。 ひとかた3 あ、ひとかた! ひとかた2 何?今の叫び声は。 ひとかた3 見ればわかる。 ひとかた1 (物置屋を背負って)だぇー!! ひとかた2 何やってるんだ? ひとかた3 取り付かれてます。 ひとかた1 見てないで、取ってくれ! 弾丸男   ならば、ワタシが。 ひとかた1 早く! 弾丸男   (撃つ)ドキューン! ひとかた3 落ちた。 物置屋   ひどい、ただ、恋焦がれているだけなのに。 ひとかた1 違う!あれは恋じゃない! ひとかた2 何なんだ? ひとかた3 ときめいちゃったんだって。 弾丸男   物置屋じゃないですか! ひとかた2 あれ?知り合い? 弾丸男   はい。 ひとかた2 で、どういうことなの? 弾丸男   おそらく、何かしら彼女のハートに火をつけるようなことがあったんでしょう。 ひとかた3 そうらしいです。 物置屋   また、悲しみが増えていくわ。しまっておかないと… ひとかた2 (1に)傷ついてるぞ、どうにかしてやれよ。 ひとかた1 不可抗力でああなったんだ。どうにも出来ない。 弾丸男   物置屋、何があったのです? 物置屋   あの人と別れてから、一人で歩いていると、後ろから猛然と追ってくるの。       わたし、あの人を見て思ったわ「これはきっと運命よ」       二人は離れられない運命なのよ。 ひとかた3 振られる運命だったんだね。 物置屋   で、くっついていようとしただけなのに。 ひとかた1 背中であんな不気味な笑いされてちゃあ、たまんないよ。 ひとかた2 ちなみにどんな笑い? 物置屋   くっくっく… ひとかた2 お―、怖ぇ。 弾丸男   物置屋、仕事をしてクダサーイ。 物置屋   仕事ならしたわ。       彼が持っているもの。 ひとかた2 何? ひとかた1 これか? ひとかた3 悲しみを置くための物置なんだって。 物置屋   そうです。 ひとかた2 へぇー。 ひとかた1 はぁ、疲れた。 物置屋   肩でも揉みましょうか? ひとかた1 うわ!いや、いいです。 ひとかた2 揉んでもらえば? ひとかた1 人事だと思って ひとかた3 僕達、人間じゃないんだよねー。 ひとかた1 ひとかた事だと思って! 物置屋   嫌われちゃいました。 弾丸男   大丈夫デース。どんな頑丈な扉でも、ノックし続ければいつかは壊れます。 ひとかた1 壊すなよ! 物置屋   わかりました。頑張ります。 ひとかた1 頑張るなよ! ひとかた3 愛されてるね。 ひとかた2 愛されてるな。 ひとかた1 何とかしろよ! 物置屋   ノックします。ノックしてもいいですか?(こぶしは力強く) ひとかた1 遠慮しておきます。 ひとかた2 一回くらいならいいじゃん。 ひとかた1 遠慮しておきます! 物置屋   じゃあ、せめて背中に引っ付いているだけでも… 弾丸男   どっちがいいですか? ひとかた1 どっちも嫌だ! ひとかた2 わがままだなぁ。 物置屋   じゃあ、引っ付いてます。 ひとかた1 だぁー!来るな触るな近寄るな、あっち行け! ひとかた3 ひどい。 ひとかた2 あんまりだ。 弾丸男   信じていたのに。 ひとかた1 何なんだよ。そうは言うけどな、       あー。手首切らない手首切らない。 物置屋   わたしの愛しい人は死に方すら選ばせてくれない… ひとかた3 (2に)何とかしてあげたら? ひとかた2 (弾丸男に)何とかしてやって。 弾丸男   (3に)何とかしてクダサーイ。 ひとかた1 たらい回しにするな! 物置屋   際限なく答えは先送りにされるわ。 ひとかた1 え? 物置屋   追いかけて頂戴。 ひとかた2 弾丸男、通訳。 弾丸男   例えて言うなら、チューリップは待っている。です。 ひとかた2 そういや、こいつもややこしいんだった ひとかた3 世界の果てだね。 弾丸男   そうデース。 ひとかた1 何だ? ひとかた3 (物置屋に)一緒に世界の果てに行くんだよね。 物置屋   はい。50メートルきっかり離れて、あなた方を見守っています。 ひとかた2 それはちょっと嫌かも、 ひとかた1 もう少し、近づいてもいいんだけど。 物置屋   (物凄い近づいて)このくらいですか? ひとかた1 いや…もう二、三歩離れてくれるとありがたいんだけど。 物置屋   …分かりました。 弾丸男   では、出発デース! ひとかた3 その前に。 ひとかた2 何だよ。 ひとかた3 お腹すいたぁ。 ひとかた1 そうだな。   ひとかた達、食事の準備。   弾丸男と物置屋は、思い思いの行動をする。 ひとかた1 世界の果てかぁ。 ひとかた2 何? ひとかた1 何か、急に近くなった気がしてな。 ひとかた3 花の境界線があるんだよね。 ひとかた1 ああ、目一杯の花の境界線がな。 ひとかた2 綺麗だろうな。 ひとかた1 そりゃ、綺麗に決まってるよ。 物置屋   (1の背後で)あの、 ひとかた1 うわ!はい。 物置屋   彼が、お腹を空かしています。 ひとかた3 何を食べるの? 物置屋   彼は、憤りを食べています。 ひとかた1 憤り? ひとかた2 そうそう、憤り。 物置屋   (2に)お願いです。憤ってください。 ひとかた2 急には無理だって、 ひとかた1 いつも憤っているじゃん。 ひとかた3 そうそう。 物置屋   お願いです。でなければ、 ひとかた2 わ、分かったから!       (でかい声で)コンチキショー! 弾丸男   なんで、俺がこんな事をやらなきゃならないんだよ。 ひとかた1・3 え? 弾丸男   彼(2)の憤りです。 ひとかた2 どうも、やりづらいなぁ。 弾丸男   やりづらくても、続けてください。 ひとかた2 分かったよ。       ドチクショウ!ミチコ、ハルエ、ユウコ、サチ、ヒトエ、トモミ、レオナ、ジャスティー、リンリン… ひとかた3 すごい数。 ひとかた2 チカ、ヒロミ、ソノコ、エミ、キミー、チカ、 ひとかた1 今、チカって二回言ったぞ、 ひとかた3 別人じゃない? ひとかた2 うるさい! 物置屋   あの。 ひとかた2 はい? 物置屋   食べ物を見るのもいやだという感じです。   弾丸男、満腹で気持ち悪そうにしている。 ひとかた2 あ、 ひとかた3 満足? 弾丸男   ウップ、満足デース。 ひとかた1 うまかったか? 弾丸男   ミミズそばを食べるよりは… ひとかた2 もうすこし、憤れそうだ。 弾丸男   ジョークデース。ウップ。 物置屋   無理してはダメです。 ひとかた2 俺達も、飯にするぞ。 ひとかた3 お腹すいた。 ひとかた1 そうだな。   ひとかた達、席に着く。 ひとかた達 いただきまーす。 ひとかた3 (物置屋に)あなたは食べないの? 物置屋   わたしは大丈夫です。       こうして見ているだけで。 ひとかた1 いや、あの。 物置屋   お気になさらずに。 ひとかた1 気になります! ひとかた3 そんなところにいないで、一緒に食べない? ひとかた1 こら! 物置屋   よろしいですか? ひとかた2 いい、いい。 ひとかた3 (1に)ひとかたも、そんなに邪険にしなくてもいいでしょ。 ひとかた1 う、まあ… ひとかた3 じゃ、決定。 物置屋   お邪魔します。   物置屋、低く笑いながらひとかた1の隣に座る。 ひとかた2 しっかし、ここら辺の風景も変わらないな。 ひとかた1 そうだな。 ひとかた3 後どれくらい行けば世界の果てにたどり着けるの? ひとかた1 俺に聞くなよ。 物置屋   くっくっく… ひとかた2 今まで、どん位歩いたっけ? ひとかた1 家を出たのが、2ヶ月前だろ、 ひとかた3 3ヶ月前じゃなかったっけ? ひとかた2 ずいぶん歩いてきたな。 ひとかた1 思えば遠くに来たもんだ。 ひとかた3 彼女を訪ねて三千里。 物置屋   彼女とは? ひとかた2 ああ、なんていうか。 ひとかた1 家族、みたいなものだ。 物置屋   そうですか。       (1に)わたしはあなたの家族になりたい。 ひとかた1 結構です! ひとかた2 いいじゃん。俺、姉貴出来るみたいだしさ。 ひとかた3 御姉さんと呼んでもいいですか? ひとかた1 呼ぶな! 物置屋   できれば、奥さんのほうが、 ひとかた1 何言ってるの! ひとかた2 奥さん。 物置屋   ポッ。 ひとかた1 照れない! ひとかた3 だから、そう邪険にしないの。 物置屋   悲しみがまた一つ… ひとかた1 ほら、さっさと食べて世界の果てへ! ひとかた2 はいはい、分かりました。 ひとかた3 いざ、世界の果てへ! 弾丸男   ど、ドキューン!   弾丸男、去って、吐く。 ひとかた1 今度から、女に憤るのは止たほうがいい。 ひとかた2 ああ…   暗転。 3   世界の果てに続く道の途中。   ひとかた達、手紙を読んでいる。 ひとかた2 花の境界線の向こう側に ひとかた1 希望に満ちた世界が広がっている。 ひとかた3 絶望の淵を飛び越えて、 ひとかた1 そこに行くと出て行った彼女。 ひとかた2 彼女を追いかけて俺らも出て行った。 ひとかた3 世界の果てはどこにある。 ひとかた2 俺らはときどき憤る。 ひとかた1 世界の果ての道の上です。 ひとかた2 世界の果てよ、待っていて、 ひとかた3 世界の果てよ、止まっていて、 ひとかた1 俺らはこうして出てきたんだから。 ひとかた達 世界の果てさん、お元気ですか?   拍手。弾丸男である。 弾丸男   手紙ですか? ひとかた2 まあ、そんなものだ。 物置屋   わたしも書いてみようかしら。 ひとかた1 俺宛なら遠慮しておきます。 物置屋   残念です。 ひとかた3 じゃあ、僕に頂戴? 物置屋   いただいて貰えますか? ひとかた3 欲しい! ひとかた2 なんでも、貰えばいいってもんじゃないぞ。 ひとかた1 (弾丸男に)ちなみに、彼女は手紙、出したことあります? 弾丸男   イエス。 ひとかた1 何か入っていました? 弾丸男   察しがいいですね。       ニトログリセリンでーす。 ひとかた3 え?トロ? ひとかた2 トロじゃない。 ひとかた3 美味しそう。 ひとかた1 じゃあ、食べてみればいい。 ひとかた3 欲しい! 物置屋   そうですか。 ひとかた2 止めとけ、止めとけ ひとかた1 世界の果てはどこですか? 弾丸男   もうすぐデース。 ひとかた1 もうすぐって言って、ずいぶん歩いたけど。 物置屋   (1の真後ろで)あなた達次第よ。 ひとかた1 うわ!何なんですか? ひとかた2 俺達次第って、どういうことだ? 弾丸男   言葉どおりの意味デース。 ひとかた3 分からない。 弾丸男   分からなくていいデース。   遠くから、けたたましい笑い声が。 物置屋   この笑い声は、 ひとかた2 知り合い? 弾丸男   イエス。知り合いデース。 ひとかた1 すごい笑い声だな。   笑い上戸、笑いながら出てくる。 笑い上戸  あーははははは。ひ―っひっひ…ひひ…あは、ははは。 物置屋   (笑い上戸の後ろで)どうしたの? 笑い上戸  うわ!何?…物置屋じゃない。それに、弾丸男も、 弾丸男   相変わらず、よく笑いますね。 ひとかた3 あなた誰? 笑い上戸  あは?あたし?笑い上戸っていうの。 ひとかた1 どうして笑っているの。 笑い上戸  どうして?あはははははははは。ひひ…ふふっ。(思い出し笑い) ひとかた2 あんたの仲間ってこんなのばっかり? 弾丸男   イエス… ひとかた1 どうして笑ってるんだろう? 物置屋   おそらく、しょーもないことよ。くっくっくっ… ひとかた3 そうなんだ… 物置屋   布団が吹っ飛んだ 笑い上戸  だーっはっはっは、 ひとかた2 隣の家に、 笑い上戸  はははははははははははははははははははは。 ひとかた達 …… 弾丸男   いつもこうなんです。気にしないでクダサーイ。 ひとかた3 花の境界線。 笑い上戸  あなたは、 ひとかた2 お、笑い止んだ。 笑い上戸  (3に)あなたは、いい感じね。あたしこの人にきーめた。       ね、いいでしょ? ひとかた3 何なの? 弾丸男   可もなく不可もなく、 物置屋   私は、もう決めているもの。 笑い上戸  え?そうなの?そうなんだ。 ひとかた1 あの。       何なんですか? 物置屋   (近づいて)知らなくてもいいことよ。 ひとかた1 あ、うん。 ひとかた2 あんたら、秘密主義者だな。 ひとかた3 秘密主義者って何? ひとかた2 ん?秘密主義者っていうのはな、「ヒ」という名前の蜜があってな。 ひとかた3 甘い? ひとかた2 ああ、とてつもなーく、甘い。 笑い上戸  うんうん、甘い甘い! ひとかた2 それでな、「ヒ」の蜜を守っている人たちがいるんだ。そういう人たちの事を秘密主義者という。 ひとかた3 へぇー、そうなんだ。 ひとかた1 違う違う。 弾丸男   世界の果てのそのまた向こう。       いつだって、答えはそのまた向こうに眠っている。 ひとかた2 あ? 弾丸男   さ、花の境界線に行きましょう。 ひとかた3 でも、この先危険って、   ひとかた3、看板を指差す。「この先危険」 物置屋   この先は、たしか、キノコ渓谷があったはずよ。 ひとかた3 キノコ。美味しい? 笑い上戸  だめだめ、あそこのキノコは。 弾丸男   笑い上戸みたいになってしまいマース。 ひとかた1 笑いダケだな。 物置屋   (2に)あの人は明るい女は好きでしょうか? ひとかた2 暗い女よりは、 物置屋   食べてしまおうかしら、笑いダケ。 ひとかた1 止めてください。 ひとかた3 笑い上戸っていったよね。 笑い上戸  ああ、そうよ。 ひとかた3 自己紹介がまだだったよね。僕らは、 笑い上戸  ひとかたでしょう? ひとかた3 あれ?何で知ってるの? 笑い上戸  そう呼んでたからね。 物置屋   あなたのことはずっと見てたもの。…くっくっく… ひとかた1 笑わないでもらえます? 物置屋   愛しい人の前では笑うことすら許されない、 笑い上戸  はははは、嫌われてやんのー。 弾丸男   笑い上戸、そこで笑うのはあんまりデース。 ひとかた2 笑い上戸、あんたも世界の果てについて、知ってるのか? 笑い上戸  あたしー?ははは、知ってるに決まってんじゃん。 ひとかた3 どうして、決まってるの? ひとかた1 俺に聞くな。 ひとかた2 世界の果ては、どんな感じだ? 笑い上戸  そんなに知りたいの? ひとかた2 まあ、そこを目指している身としては、 笑い上戸  教えて上げなーい。きゃはははは、 ひとかた2 なんかムカツク。 笑い上戸  嘘ぴょーん。教えたげる。       世界の果てはね、 ひとかた達 世界の果ては? 笑い上戸  なんだったけ?忘れちゃったー。ははははははっはははははは、 ひとかた2 弾丸男、 弾丸男  なんです? ひとかた2 殴っていい? 笑い上戸  冗談だって!ジョ―ダン!ははははは、   ひとかた2、むやみにシャドウボクシング。 笑い上戸  分かりました。教えるわよ。       世界の果て、そこに行けば希望に満ちた世界へと続く花の境界線がある。       これが世界の果ての全て。それ以上でも、それ以下でもない。 ひとかた3 綺麗? 笑い上戸  綺麗よ。とっても綺麗 ひとかた2 かわいいねーちゃんいるか? 笑い上戸  それは、難しいわ。 弾丸男   ドキューン! 笑い上戸  分かったわよ。 物置屋   (1の背後で)さ、行きましょう。悲しみが積もるわ、 ひとかた1 あ、ああ。 ひとかた2 行くか。   ひとかた1・2、弾丸男・物置屋、先に行く、   ひとかた3、ついていこうとする。 笑い上戸  ちょっと、あんた。 ひとかた3 何? 笑い上戸  あんたはどうして世界の果てに向かうの? ひとかた3 彼女が待っているから、そして、希望が待っているから。       希望に満ちた世界で、彼女と暮らすんだ。 笑い上戸  あんた、透明ね。 ひとかた3 じゃあ、食紅混ぜるよ。 笑い上戸  透明なほうがいいときもあるのよ。 ひとかた3 分からない。 笑い上戸  (ぼそっと)無知も時にはいいものよ。 ひとかた3 何? 笑い上戸  何でもないわ。       行きましょう。 ひとかた3・笑い上戸、去ろうとする。 ひとかた2(声) わわっ、止めとけって! ひとかた1(声) 何?あ! ひとかた3 何だろう? 笑い上戸  あたしに聞かないでよ。 弾丸男(声)  オーマイガッ! ひとかた2(声) まずいぞ、ひとかた ひとかた1(声) まずいな、ひとかた 弾丸男(声)  ダッシュデース! 笑い上戸  とにかく行ってみましょ。 ひとかた3・笑い上戸、みんなのいる方向へ… ひとかた2(声) 逃げろ、ひとかた! ひとかた3(声) え?何? ひとかた1(声) いいから、早く! 弾丸男(声)  とにかく、まずいことになってマース。 笑い上戸(声) あははっはは、まずいじゃんそれ、 ひとかた1(声) 笑ってないで、逃げる! 笑い上戸(声) はいはい、逃げ…ま…す? 物置屋(声)  うふ?うひょ?にょひょひょひょ? ひとかた1(声) 分かった? 笑い上戸(声) 身にしみて… ひとかた3(声) 逃げたほうがいいね。 ひとかた2(声) 先行くぞ! 弾丸男(声)  待ってクダサーイ!   ひとかた2・弾丸男、舞台上へ駆け込む。   続いて、ひとかた1、ひとかた3、笑い上戸も ひとかた3 何なの?今のは? 弾丸男   笑いダケでーす。 ひとかた1 目を放した隙に、彼女、食べちゃって 物置屋(声) (恐ろしく低い声で)ひゃははははは、ダーリ―ン。 ひとかた2 (1に)お呼びだぞ。 ひとかた1 こんな状況で、よくそんな冗談が言えるな。 物置屋(声) ダーリン、コッチ向―いて。 ひとかた1 (背を向ける) 笑い上戸  相変わらず、思い切った事やるわねー。 弾丸男   いつもの事とは言え、大変デース。 ひとかた2 あんたも苦労してるんだ。 物置屋(声) 今からそっちに行くわー。 ひとかた3 来るよ。 ひとかた1 俺に言うなって。 弾丸男   何とかしてクダサーイ。   物置屋、「うひょ、ぬはははは、でへぇー」などと不気味な声を出しながらやってくる。 笑い上戸  あー、完全にイッちゃってるね。 物置屋   ダーリン。のほほほほほ、むは―。 ひとかた2 (1に)ほら!ひとかた! 弾丸男   あなたしかいないんです。 ひとかた3 テキトーに頑張ってみれば? ひとかた1 頑張れない! 物置屋   うにょ?にょひひひひひひひひひひひひひひ、 ひとかた2 ひとかた! ひとかた3 ひとかた! 弾丸男   ひとかたさん! ひとかた2・3・弾丸男 さあ! ひとかた1 う、うあああああああああああああああああああああああああああああ。   ひとかた1、キノコ渓谷に突っ込み、笑いダケを貪る。 ひとかた1(声) うひ、だははっはははははは、どへぇー。 ひとかた3 やっちゃったね。 弾丸男   オーマイガッ。 物置屋   ダーリン? ひとかた1 ダーリンどえーす! ひとかた2 目も当てられない… 物置屋   どーしたの?ダーリン。       私の知ってるダーリンはこんなんじゃないわ。 笑い上戸  そりゃ、そうだわ。 ひとかた1 そりゃ、そうだよ。うにょ?にょにょにょにょにょ… 弾丸男   どうしましょう? ひとかた3 どうしましょう? 物置屋   そりゃそうよねー。 ひとかた2 納得しちゃったぞ。 ひとかた1 ミクちゃーん。電話に出てよー。一緒に新居浜行こうって言ったじゃない。 物置屋   誰よ、ミクちゃんって、       ああー!悲しみがまた一つ増えるわ!みょみょみょ、 笑い上戸  何とかしてよ。 ひとかた3 じゃあ、僕が、   ひとかた3、おもむろにキノコ渓谷に向かおうとする。それを、ひとかた2、弾丸男、笑い上戸が引き止める。 ひとかた2 馬鹿!止めとけ。 ひとかた1 新居浜―ぁ、黄昏―ぇ♪ 笑い上戸  これじゃ、埒があかないわ。       弾丸男 弾丸男   やりますか? 笑い上戸  軽くね。 ひとかた3 何やるの? 笑い上戸  ま、見てて。   弾丸男、構える。そして、「どきゅーん!どきゅーん!」と問題の二人を撃つ。   問題の二人、崩れ落ちる。 ひとかた2 (1に)大丈夫か? 弾丸男   大丈夫デース。 笑い上戸  ほらほら、起きる。(二人の頬をぺんぺんと叩く) ひとかた1 う、ん。 ひとかた3 大丈夫みたい。 物置屋   ふ、ふ。 ひとかた2 こっちはどうだろう… 笑い上戸  ダメだったりしてぇー。きゃははっ、 弾丸男   笑い事じゃないデース。 ひとかた1 あれ?えー、あー、       ああ…そうだった… ひとかた2 覚えてるか? ひとかた1 7割ほどは… ひとかた3 それだけ覚えていれば、十分だね。 ひとかた1 十分すぎるほど、十分だ。 物置屋   ダーリン。 ひとかた達 え? 物置屋   幸せだったわ、このひと時でも、あなたとつながることが出来て、 弾丸男   どうやらコッチも大丈夫みたいデース。 笑い上戸  良かったね。物置屋。 物置屋   幸せでした。くっくっく… 弾丸男   では、行きましょうか。 ひとかた3 行こう行こう! ひとかた2 (1に)うひょひょひょひょ、 ひとかた1 あー!うるさい!   ひとかた達、ごちゃごちゃやりながらキノコ渓谷へ。   笑い上戸・物置屋もキノコ渓谷へ向かおうとする。 弾丸男   花の境界線、もうすぐですね。 物置屋   ええ、くっくっく。 笑い上戸  ははははははは…どうなるんだろうね。 弾丸男   真面目にやってクダサ―イ。 物置屋   私はいつも大真面目よ。       あの人の事だもの 笑い上戸  大丈夫大丈夫、ね! ひとかた3 みんな、何してるの? 笑い上戸  あ、今行くから。(弾丸男・物置屋に)ね! 弾丸男   …行きましょう。   一同。去る。   暗転 4 音楽 世界の果てに続く道の途中。 ひとかた達、駆け抜けるように手紙を読んでいる。 ひとかた1 あるところに、絶望の淵に立って微笑んでいる女の子がいました。 ひとかた3 今は、希望に満ち溢れた世界に立って微笑んでいるはずです。 ひとかた2 俺らは彼女に希望を見つけた。 ひとかた1 正確に言えば、彼女の生き方に希望を見つけた。 ひとかた2 絶望の淵から希望へと抜け出せる事を知った。 ひとかた3 だから僕らも行こうと思う。 ひとかた2 ここから俺らも行こうと思う。 ひとかた1 ときどき俺らは泣きたくなる。 ひとかた2 世界の果ての道の上です! ひとかた3 僕らはいろんな人に出会った! ひとかた1 今度はきっとあなたに会いたい! ひとかた達 世界の果てさん、お元気ですか! 弾丸男   キノコ渓谷を越え、幾千里!   転換 ひとかた3 世界の果てさん、待っていて! ひとかた1 世界の果てさん、止まっていて! ひとかた2 俺はあんたに逢いたいんだ! ひとかた1 逢ってダンスを踊りたいんだ! ひとかた3 憤りと悲しみと絶望のダンスを ひとかた2 強さと優しさと爆笑の喜劇を ひとかた1 あなたは待ってくれてりゃいいんだ! ひとかた3 待ってくれてりゃ、追いかけるから! ひとかた達 世界の果てさん、あなたに会いたい! 物置屋   幾千里を越えて幾万里!   転換 ひとかた1 これは、要約すると恋という感情なのかもしれない。 ひとかた2 これは、要約すると憧れという感情なのかもしれない。 ひとかた3 これは、要約すると安らぎという感情なのかも知れない。 ひとかた2 世界の果ての道の上、花の境界線が待っている。 ひとかた3 目一杯のお花畑の上、元、絶望の淵の上 ひとかた1 花の境界線は笑っている。 ひとかた3 花の境界線は泣いている。 ひとかた2 花の境界線はそこにある。 ひとかた3 だから、僕らはそこに行こうと思うんだ。 ひとかた2 けつまづいたりしながら、行こうと思うんだ。 ひとかた3 僕らはときどき苦笑い。 ひとかた1 世界の果ての道の上です。 ひとかた2 世界の果てさん、あなたはとても綺麗なはずだ。 ひとかた1 世界の果てさん、俺らはあなたに期待している。 笑い上戸  未だに彼らは世界の果てに続く道の上、 ひとかた1 だから俺らは叫び続ける。 ひとかた3 世界の果てさん、お元気ですか!   暗転   夜。   笑い上戸、弾丸男、物置屋、三人で何か話している。ひとかた達は居ない。 弾丸男   ずいぶん歩きましたね。ウップ。 物置屋   食べすぎよ。弾丸男 笑い上戸  (笑いながら)コンチキショー! 物置屋   声が大きい。 笑い上戸  (大声で)あ、ゴメンゴメン! 弾丸男   ちょっと、ウップ。   弾丸男、隅っこで吐く 笑い上戸  はははははは。 物置屋   (笑い上戸の背後で)うるさいわ。 笑い上戸  わ!あ、はい。 弾丸男   真剣にやってクダサーイ。 物置屋   私は真剣そのものよ。 笑い上戸  あたしもー。 弾丸男   (ため息) 笑い上戸  彼らは? 物置屋   寝てるわ。 笑い上戸  (大声で)ああー、そう。 弾丸男   だから、もう少し小さい声で喋ってクダサーイ。 物置屋   (聞き取れないほど小さい声で話す) 弾丸男   あなたは、もう少し大きい声で喋ってクダサーイ。 笑い上戸  (弾丸男に)あんた、疲れてるね。 弾丸男   あなた達のせいです。 物置屋   私は何もしていないわ。 笑い上戸  ありゃ?あたし?       あはははははははははは… 弾丸男   もういいです。 物置屋   もうすぐね、世界の果て、 笑い上戸  (真面目に)そろそろ、ね。 弾丸男   彼らは、…………でしょうか? 笑い上戸  きっと大丈夫よ。 物置屋   そろそろ 笑い上戸  ああ、   ひちかた3「トイレ…」といいながら登場。 ひとかた3 あ、みんな。どうしたの? 弾丸男   秘密デース。 ひとかた3 甘いの? 笑い上戸  甘いわ、とてつもなく甘いわ。 ひとかた3 欲しい! 物置屋   あなたには、必要無いものよ。 ひとかた3 それでも欲しい! 物置屋   なら、世界の果てに来ることね。 笑い上戸  じゃ、お休みなさい、       って、ガラじゃないわね。 弾丸男   さあ、安らかに眠るのデース。 ひとかた3 ん、うん。   ひとかた3、眠りにつく。   暗転 5   世界の果て、ひとかた3寝ている。   ひとかた1・2、ひとかた3を探してやってくる。 ひとかた2 こんなところで寝て… ひとかた1 ひとかた、風邪引くぞ ひとかた3 うにゅう、後一分だけ。 ひとかた2 起きろー! ひとかた3 起きました。 ひとかた2 こんなところで寝やがって、       ワープでもしたか? ひとかた1 弾丸男達も居ないみたいだし。 ひとかた3 みんななら、行ったよ。 ひとかた1・2 どこへ? ひとかた3 どこか。 ひとかた1 困るなあ。案内人が居ないと、       せっかくここまで来たのに。 ひとかた2 腹減ったぁ… ひとかた1 言われても、何もでないぞ。 ひとかた3 昨日ので最後だったの? ひとかた1 最後、正真正銘最後。 ひとかた2 じゃあ、女の子でいい。 ひとかた3 世界の果てに行ったら居るかもしれないよ。 ひとかた1 居ない。絶対居ない。 ひとかた2 ひとかた、夢の無い事言うな。 ひとかた1 そんな夢なら、寝てから見ろ。 ひとかた3 手紙もずいぶんたまったね。 ひとかた1 ずいぶん書いたからな。 ひとかた2 もう、食後の手紙も無しかぁ。 ひとかた1 そんなこと無いぞ、       …食後ではなくなるけど。 ひとかた3 あ!あれ。 ひとかた1・2 何だ?   看板「ようこそ、世界の果てへ」 ひとかた1 ようこそ、世界の果てへ ひとかた2 ということは、ここは世界の果てか? ひとかた3 何もないよ。花の境界線は?希望に満ち溢れた世界は? ひとかた2 まだ先にあるんじゃないか? 弾丸男(声) ようこそ、世界の果てへ! ひとかた2 弾丸男…       弾丸男!世界の果てはどこだ! ひとかた3 花の境界線は! 弾丸男(声) ようこそ、花の境界線へ! ひとかた1 ここが、花の境界線ということか。       何も…何も無いじゃないか! 物置屋(声) あるわ、あなたの真後ろに。 ひとかた1 え?   振り返ると、そこには一輪のチューリップ。 ひとかた2 まさか、これが… ひとかた1 花の境界線? ひとかた3 一面のお花畑じゃなかったの? ひとかた1 俺に聞くな! ひとかた2 こんなの、どうやって渡れって言うんだよ。 弾丸男(声) 世界に向かって、コンチキショーと叫ぶのです。 ひとかた2 コンチキショー! 弾丸男(声) それが憤りです。 ひとかた1 彼女は、こんな場所に救われてなんかなかったはずだ!       たかが、チューリップ一輪に何が出来る?       これじゃあ、絶望の淵から抜け出すことなんか出来やしないだろ! 物置屋(声) 場所は人を救うことは出来ないわ、        人を救えるのはやっぱり人よ。 ひとかた1 でも!救われる一瞬ってのがあってもいいはずだ!       それは例えば、涙の栓をあけてくれる夕焼けのように! 笑い上戸(声) それは例えば、吐きそうでたまらない時のトイレのように! ひとかた1 そういう事をいってるんじゃない! ひとかた2 希望に満ちた世界はどこにあるんだ!       境界線の向こうには希望に満ちた世界が広がっているんじゃなかったのか! 笑い上戸(声) 境界線がないんだもん。残念だったわね。 ひとかた1 じゃあ、俺達は何のためにここに来たんだ!       彼女は、花の境界線を越えたんじゃなかったのか! ひとかた2 越えていないのか!越えていないんなら彼女はどこに居るんだ! ひとかた1 弾丸男!物置屋!笑い上戸!       居るんだろ。居るなら出て来い!   三人、出てくる。 ひとかた1 あんたら、何もかも知ってたんだな。 笑い上戸  知りましぇーん。 ひとかた1 知ってたんだな! 弾丸男   いかにも、その通りデース。 ひとかた2 どうして教えてくれなかったんだ! 弾丸男   知ればいいというものではありません。 ひとかた2 でも! 物置屋   知ってしまったら、あなたは花の境界線に行く? ひとかた2 …行かない。 ひとかた3 希望、どこ? 笑い上戸  そんなものあるわけないでしょ? ひとかた3 じゃあ、彼女は? 物置屋   彼女も居ないわ。 弾丸男   さ、選ぶのデース。 ひとかた1 何を? 物置屋   これからどうするか。何を考え、どこに行くかを選んで、 ひとかた2 そんなもの、決まってるだろ 笑い上戸  どうするの? ひとかた2 帰るんだよ。       帰って、ひと眠りして、それからいつものように飯食って、お気楽に過ごすんだよ。       布団に包まったまま、「後5分」を30回くらい繰り返して、ときどき手紙を書いたり何かして、       俺達は元々そうやって過ごしていたんだ、これからだってそう過ごす。 弾丸男   世界の果てなんてクソクラエだ。       …あなたの憤りデース。 ひとかた2 そうだよ、クソクラエだ。 笑い上戸  うんこー!きゃははははははは。 ひとかた2 うるさい! 物置屋   (1に)あなたはどうするの? ひとかた1 …俺は、       もう少し行ってみるよ。 ひとかた2・3 ひとかた? ひとかた1 世界の果てのその先に花の境界線が待っているかもしれないし、       その先には希望に満ちた世界が待っているかもしれない。 物置屋   絶望の淵が待っているかもしれないわよ。 ひとかた1 そんなもの、飛び越えてしまえばいい。 ひとかた2 ひとかた、簡単に言うけどな。簡単じゃないんだぞ。 ひとかた1 ああ、難しそうだ。       花の境界線が見つかるのかもわからないし、ただ、行ってみようと思うんだ。       そのためにここまで来たんだし。       世界の果ては待ってくれていた訳だし。 ひとかた3 大丈夫? 弾丸男   あなたはそれを選ぶというのですか? ひとかた1 ま、何とかなるだろ。 笑い上戸  (1に)あなたって、もっとネガティブなのかと思った。 ひとかた1 残念でした。 ひとかた3 でも、逆境に弱いんだよね。 ひとかた1 うるさい。 笑い上戸  (3に)あなたは? ひとかた3 僕?       どうしよう… ひとかた1 帰ったらいい。       布団に包まって、美味しいものでも食べて、また眠ればいい。 ひとかた2 先に行けばいい。       希望に満ちた世界に行って、彼女と逢って、一緒に過ごしたらいい。 弾丸男   どうするのです? ひとかた3 僕は…       ここに残るよ。 ひとかた1・2 ひとかた! ひとかた3 僕はここに残って、こいつに水をやることにするよ。 ひとかた1 それでいいのか? ひとかた3 (うなずく)だって、水やらないと枯れるでしょ? ひとかた2 飯はどうするんだよ。 ひとかた3 我慢するよ。我慢して空腹で倒れても、大丈夫。 ひとかた2 大丈夫じゃないだろ。 ひとかた3 空腹くらいが丁度いいんだよ、この場所では。       空腹でフラフラになりながら、こいつと一緒に揺れてやるんだ。       長い時間かけて、こいつが種をばら蒔いて、いつか本当の花の境界線が出来たら。       (2に)ひとかた、もう一度だけここに来てみてよ。そうしたら、彼女に会えるかもしれないね。 ひとかた2 ひとかた… ひとかた3 (1に)ひとかたも、いざって時に帰れなくなったら大変でしょ?       目印になると思うんだ。目一杯のチューリップ畑なんて。 ひとかた1 馬鹿なことは止めろ。 ひとかた3 馬鹿なことかな?本当に、馬鹿なことかな? 笑い上戸  馬鹿じゃないよ。愚かだとは思うけど。 ひとかた3 愚かって何? 笑い上戸  「お」が続いている廊下よ。 ひとかた1・2 絶対違う! 弾丸男   それぞれの向かう先が決まったようですね。       (2に)ひとかた。あなたに渡したいものがありマース。 ひとかた2 何だよ。 弾丸男   (目一杯の大声で)コンチキショー!!       …憤りです ひとかた2 え? 弾丸男   あなたの憤りです。あなたに返します。 ひとかた2 ?ああ。もらっとく。 弾丸男   頑張って帰ってください。 物置屋   ひとかた。あなた… ひとかた1 手紙なら遠慮しときます。 物置屋   あなたから貰う物があります。 ひとかた1 え?何? 物置屋   それよ。悲しみを置くための物置。       あなたには必要ないものよ。返して頂戴。 ひとかた1 前は、俺に必要だって… 物置屋   前は前、今はどうやら必要ないみたいね。 笑い上戸  そうそう、あなたはこれ。(と笑い袋を渡す。) ひとかた1 何だよ。これ。 笑い上戸  今のあなたに必要なものよ。押してみて、 ひとかた1 (笑い袋を押す) 笑い上戸  きゃははははははははは。 ひとかた2 何なんだよ。普通の笑い袋じゃん。 笑い上戸  絶望の淵に立つことになったらそれ使って笑ってね。       楽しいわよー。 ひとかた3 僕には?何もないの? 物置屋  あなたにはこれをあげるわ。 ひとかた3 あ、物置。 物置屋   と、これも、 ひとかた1 鍵? 物置屋   一人になったら、物置を空けてあげて、       とても悲しくなると思うけど、その分優しくなって。       世界を包み込めるくらい悲しくなって、優しくなって。 ひとかた3 … 物置屋   あなたは、そうする事を選んだはずよ。       そうじゃない? ひとかた3 そのような気もする。 笑い上戸  しっかり頑張りなよ。 弾丸男   では、ワタシ達も行きますか? 笑い上戸  そうね。 ひとかた1 その前に、一つだけ聞きたいことがある。 弾丸男   何ですか? ひとかた1 あんたらはどうして俺達の前に姿を現した? 弾丸男   あなた達を世界の果てに連れて行くためデース。 ひとかた1 本当にそれだけか? 弾丸男   嘘に嘘を重ねて言うならば、世界の果てに連れて行って選ばせるためデース。 ひとかた2 何を? 物置屋   今、あなた達が選んだ事を ひとかた3 それに何の意味があるの? 笑い上戸  それ自体には何の意味もないわよ。       そうね、強いて意味を見い出すならば、選んだ先にあるんじゃない? ひとかた1 選んだ先? 物置屋   つまり、生き方。       あなた達は生き方を選んだのよ。どのようにして考え、どのように生きるかを選んだの。 ひとかた2 だったら、生きた先に意味を見い出せばいいってわけか。 笑い上戸  ずっと布団で包まっているよりも素晴らしい生き方が出来るといいね。 ひとかた1 ああ、 弾丸男   許してくれとは言いません。ただ、あなた達に選んでもらう必要があったのです。 ひとかた2 分かってるよ。(とグ―) 弾丸男   それ、許していません。 ひとかた2 許してくれとは言わないんだろ? 弾丸男   前言撤回デース。 ひとかた3 ねえ、物置屋。       僕ね、きっと世界を包み込めるほど優しくなんかなれないよ。 物置屋   それでもいいわ、 ひとかた3 お腹すいた。 ひとかた1 空腹くらいが丁度いいじゃなかったのか? ひとかた2 飯、無いぞ。 笑い上戸  ああ、忘れてた。あんた達愛しの彼女から伝言。 ひとかた達 え? 笑い上戸  心して聞くように。       みんなへ、世界の果てはいかがでしょうか?       がっかりしましたか?憤りましたか?悲しくなりましたか?絶望しましたか?       世界の果てには花の境界線なんてありません。       人を救えるのは場所ではなくてやっぱり人です。       私がみんなに救われたように、今度は私がみんなを救おうと思ったのです。       みんなに生き方を選んでもらう事で、みんなを救おうと思ったのです。       だって、昔のあなた達はあまりに世間知らずで臆病だったから ひとかた3 世間知らずかなあ? ひとかた2 お前が一番そうだろ。 笑い上戸  黙って聞く。       いつだって、私は怖かった。       みんながこの快適な生活に慣れてしまうのではないかと、そして、私がそうすることになれてしまうのではないかと、       だから私は出て行ったのです。きっと、みんなは世界の果てに行くと信じて、       そして、この手紙を読んでいるということはみんなが世界の果てにたどり着いたということでしょう。       ありがとう、そしてごめんなさい。 物置屋   終わり… ひとかた1 うん… ひとかた2 なあ、やるか? ひとかた3 手紙? ひとかた1 よし、やろう! ひとかた達 世界の果てさん、お元気ですか! ひとかた1 世界の果てへ行くと、彼女は出て行った。 ひとかた3 彼女を追いかけて、僕らも出て行った。 ひとかた2 出て行くことは面倒くさいから。 ひとかた3 出て行かないことは恐ろしいから。 ひとかた1 いつもいつも一歩を踏み出すためのきっかけを探していた。 ひとかた2 それが彼女だった。 ひとかた3 彼女は世界の果てへいけただろうか? ひとかた1 世界の果てのその先へいけただろうか? ひとかた2 そして俺達は、どうだろうか? ひとかた1 世界の果ては見つかるのだろうか? ひとかた2 時々思う、 ひとかた3 出て行かずに布団に包まっている事を ひとかた1 それでも俺達は行かなきゃならない。 ひとかた3 確かに僕達は行かなきゃならない。 ひとかた2 だから俺達は叫び続ける ひとかた達 世界の果てさん、お元気ですか?   弾丸男、物置屋、笑い上戸、拍手。 ひとかた2 ひとかた、終わったな。 ひとかた1 ひとかた、終わったな。 ひとかた3 世界の果てさん、あなたに会えてよかった。 笑い上戸  そう言ってもらえると、連れて来た甲斐があったもんだわ。 物置屋   そろそろ、おいとましましょうか。 弾丸男   では、 ひとかた2 ああ、最後に一発殴ってからな。 弾丸男   ドキューン!(去る) 笑い上戸  あはははははは。 ひとかた1 あんた達とも、これでお別れってわけだ。 笑い上戸  清々した? ひとかた1 ああ、       って、首つらない首つらない。 物置屋   私の恋はまた実らなかったわ…くっくっく… ひとかた3 みんなはどうするの? 笑い上戸  テキトーに頑張るわよ。 ひとかた1 おい、笑い上戸       あんたら、親、いるだろ。 笑い上戸  唐突だけれども、間違いじゃないわ。 ひとかた1 当ててやるよ。あんたらの親。 ひとかた2 知ってるのか? ひとかた1 ああ、よーく知ってる。 物置屋   あなたが私の事を一つでも知っていてくれて嬉しいわ。 ひとかた3 誰? ひとかた1 その人の名前は梅田ケイ、またの名をドリームオンリー。       そして、俺達の言うところの彼女だ。       …当たりだろ? ひとかた2・3 え? 笑い上戸  ピンポーン!よく出来ました。       いつから気付いてたの? ひとかた1 昨日。寝る前に考えてみたんだ。       あんたらの名前、どっかて聞いたことがあると思ってな。       そりゃ、聞いたはずだよ。彼女の物語の中に出てきたんだから。 ひとかた3 だから、手紙持ってたんだ。 笑い上戸  そういうこと。 物置屋   素晴らしい推理力です。私、ますますあなたのことが愛しくなりました。 ひとかた1 では、さようなら。 物置屋   ああ、また悲しみが一つ増えるわ… ひとかた3 世界の果てと同じだね。 笑い上戸  うん!やっぱり君、いいわ!       じゃあね! ひとかた3 ばいばい!   笑い上戸、去る。 物置屋   さよなら、私の2839回目の初恋。(去る) ひとかた1 … ひとかた3 行っちゃったね。 ひとかた2 よし!俺も行くわ。 ひとかた3 うん。 ひとかた2 手紙書くから。       心して読むように。 ひとかた1 ああ、心して読むことにするよ。 ひとかた3 届いたらね。 ひとかた2 …届くかな? ひとかた1 …いや、結構厳しいと思う。 ひとかた3 届かないでしょ。 ひとかた2 あー、いい。届かなかったら俺が届けるから!       …じゃあ、な。 ひとかた1 気をつけて帰るんだぞ。 ひとかた3 女の子にひどいことするんじゃないぞ。 ひとかた2 うるさい!       (1に)そっちこそ、気をつけて行けよ。絶望の淵に、はまるんじゃないぞ。 ひとかた3 悪い女に引っかかるんじゃないぞ。 ひとかた1 うるさい。 ひとかた3 僕は、黙って見送るから、       引き返す人間と先に進む人間を見送るから。 ひとかた1・2 俺達、人間じゃないんだよな。 ひとかた3 ひとかたを見送るから! ひとかた1・2 じゃ、見送ってくれ。 ひとかた3 うん!   ひとかた1・2、ゆっくりと名残惜しそうに、けれども振り返らずに世界の果てを後にする。   ひとかた3、それを名残惜しそうに見送る。   二人が去った後、ひとかた3はチューリップを空高く掲げる。 ひとかた3 大きくなれ、もっと大きくなれ。   暗転。 6 ひとかた2、手紙を読んでいる。 世界に向かって手紙を読んでいる。 ひとかた2 先に進んだあなたへ。       あなたはお元気ですか?       絶望を笑い飛ばしながら今も歩いているでしょうか?       絶望を通り越して希望に満ちた世界にたどり着けたでしょうか?       それとも希望に満ちた世界なんて無いと、無駄に大人ぶって悟ってしまったのでしょうか?       立ち止まったあなたへ。       あなたはお元気ですか?       悲しみの物置のドアを開いた感想はどんなものでしょうか?       悲しみに負けないくらいの優しさを持つことが出来たでしょうか?       そして、チューリップ一輪だったあの場所はどうでしょうか?       優しく揺れる一面のチューリップ畑は出来たでしょうか?       それとも、おなかを空かしたあなたと一輪のチューリップが揺れているだけでしょうか?       俺が帰ってから、ずいぶんの時間がたちました。       そろそろ、そっちに行ってみようと思うのです。       では、行きます。また、長い時間かけて世界の果てに向かいます。       歓迎してください。   ひとかた2、リュックに荷物を詰めて、去る。   ひとかた1、入れ違いに登場。   きっと、希望に満ちた世界だろう。ひとかた1、伸びをする。 ひとかた1 希望に満ちた世界へ、希望に満ちた世界さんお元気ですか?   ひとかた1、希望を追って、去る。   ひとかた3、入れ違いに登場。手にはジョウロが   ひとかた3、一輪のチューリップに水をやりながら、 ひとかた3 のんびり優しく育つんだよ。       そして、優しく誰かを迎えてあげて。   ひとかた3、水をやり続ける。   暗転 全員    世界の果てへ、世界の果てさんお元気ですか! 幕。