尊きモノ達 登場人物 ・「そこ」へ行こうとする者 「ほら吹き男爵」:嘘をつく男 「間抜け面」:手を伸ばす男 「阿呆鳥」:足を伸ばす男 ・「そこ」いる者 「ヨコヨコ」:追いかける女 「タテタテ」:逃げる男 「ふたりぼっち」:見守る女 ・「そこ」で待っている者 「馬鹿正直」:手を伸ばされる女 「朴訥夫人」:嘘を信じる女 0   ふたりぼっち、座り込んで歌っている。   周りには間抜け面達やほら吹き男爵達、ヨコヨコ・タテタテが走ったり、話したり、笑ったり、泣いたり… ふたりぼっち いつのことだか、思い出してごらん。あんなこと、こんなこと、あったでしょう。   ふたりぼっち、可笑しくなってくすりと笑う。 ふたりぼっち ポカポカお庭で、仲良く遊んだ、いつになっても忘れない。        …忘れない?        (可笑しくなって)馬鹿馬鹿しい。   ふたりぼっち、鼻歌う。   ほら吹き男爵、朴訥夫人、話している。 男爵    なぁ、お前。       花を、贈ろうと思うんだが、どんな花が良い? 夫人    贈り物ですか?誰に? 男爵    …お前だったら、どんな花が欲しい? 夫人    そうですねぇ…   夫人、考え込んでしまう。   男爵、夫人の答えを待っている。   間抜け面、阿呆鳥、馬鹿正直、遊んでいる。 間抜け面・阿呆鳥  最初はグー、ジャンケンポン。 馬鹿正直  あんた達、何やってんの? 間抜け面  リアルケイドロ 馬鹿正直  リアル? 間抜け面  そ、俺、警察な。 阿呆鳥   じゃあ、俺、泥棒だね。   間抜け面・阿呆鳥、逃げるわけでもなく、追うわけでもなく、どこかへ行こうとする。 馬鹿正直  あんた達、どこに行くのよ。ケイドロするんでしょ。 間抜け面  え?俺、警察学校に。 阿呆鳥   俺は、前科つくりに。 馬鹿正直  いや、前科って…ちょっとぉ、ねぇ!   といって、二人は別々の所へ。   馬鹿正直は、戸惑いながら二人とは別のところへ。   タテタテは逃げる。ヨコヨコは追い駆ける。   痺れを切らして、ほら吹き男爵は聞いてみる。 男爵    じゃあさ、バラなんてどうかな。 夫人    バラは、棘があるから嫌。 男爵    ユリなんてどう? 夫人    ユリは、はかない感じがするから嫌。 男爵    じゃあ、菊は? 夫人    菊って、死人にあげるものでしょう? 男爵    じゃあさ、何が良いんだ。   夫人、再び考え込む。   ふたりぼっち、ふと考え込む。 ふたりぼっち 忘れてなんぼなのにね。やっぱ、寂しいわ。   ふたりぼっち、行く。楽園へ…   タテタテとヨコヨコはどこへ行ったのやら。   猥雑としていた広場は、男爵と夫人だけになる。   考え込んでた夫人。顔を上げる。   暗転 夫人(声) チューリップを、       紫色したチューリップを貰ったら、とても嬉しいと思います。 1   ほら吹き男爵、突っ立っている。周りには、間抜け面と阿呆鳥が、   ほら吹き男爵、手に一枚の紙切れを持っている。 男爵    真実の話をしよう。       「両手に華」というけれど、両手にバラを持ったら       痛い!       限り無く痛い!もう、手なんか血まみれで、どぁーーって          男爵、冷たい視線を感じて咳払い。 男爵    …あなたは、それを当たり前の事だと思うだろう。       しかし、当たり前と思っていることほど、見えていない事の方が多いものだ。       もう一つ、真実の話をしよう。       「灯台元暮らし」というけれど、灯台がなかったら真っ暗だ。元暮らしも何もあったもんんじゃない。       …私の妻がいなくなったのは、そんな月のない晩の事だった。       妻のいない生活が、数十週間続いたある日、奇妙な手紙が来た。       きっとこれは、妻からの手紙に違いないと思い、旅に出た。考えてみると普通じゃない。       差出人不明、返信先も書いていない。そんな手紙を妻からのものだと信じているんだからな。 間抜け面  なんて書いてあったんだ? 男爵    紫色したチューリップを持ってきてください。楽園で待っています。 阿呆鳥   俺達と同じだ…。 男爵    同じ? 間抜け面  同じなんだよ、奇妙な手紙。招待状って書いてあったけど。 阿呆鳥   隠れ続けるのに疲れました。楽園で待っています。 男爵    それで、君たちも楽園へ?       その、えーと…(名前が思い出せない。) 間抜け面  間抜け面だ。 男爵    あぁ、そうそう。間抜け君。 間抜け面  誰が間抜けじゃ! 男爵    いやいや、すまない。       その、間抜け面君と阿呆鳥君は楽園を探しているというわけだ。 阿呆鳥   そうそう。 間抜け面  そういや、あんたの名前、聞いてなかったな。 男爵    私の名前?       ウンチウンチポチョムキン三世という。 阿呆鳥   本当か?面白い名前だな。 男爵    ウンチウンチポチョムキン一世。つまり私の祖父は、それは素晴らしい腕の料理人でな。       米小麦ライ麦パンを焼かせたら右に出るものはいなかった。       それを国王に献上したところ、大変感動されて、この名前をいただいたというわけだ。 阿呆鳥   美味いのか?その、何とかパンは。 男爵    口の中に地平線が広がると聞いたことがある。 阿呆鳥   へぇー。 男爵    …まぁ、全部嘘なんだが。 阿呆鳥   (ショックを受けて)間抜けぇ。嘘つかれた、俺、嘘つかれた。 間抜け面  そんな嘘に引っかかるほうが間抜けなんだよ。 阿呆鳥   (男爵に)あぁぁぁぁ、間抜けに間抜けって言われたぁ。 間抜け面  うるさい。間抜け間抜け言うな。 阿呆鳥   怒られたぁ。 間抜け面  で、本当の名前は? 男爵    ほら吹き男爵という。 間抜け面  本当だろうな。 男爵    そう人を疑うものじゃない。 間抜け面  疑うわ、そりゃ。       だいたい、何だ?ほら吹き男爵って、ふざけた名前は。 男爵    人の名前を「ふざけた」とか言うもんじゃない。 間抜け面  まぁ、名前なんてものはどうでも良い。 男爵    ふざけたとか言っておいてか? 間抜け面  根に持つんだな。 阿呆鳥   根に持っても何も良いこと無いぞ。ねぇ。 男爵    それはそうだな。 阿呆鳥   とりあえず、とっとと行こうよ。       今日も野宿ってのは嫌だからな。 間抜け面  そうだな。じゃあな、ほら吹きさん。   阿呆鳥・間抜け面、行こうとする。 男爵    どこへ行こうというのだ?   二人、固まる。 間抜け面  ど、どこって…楽園に決まっているじゃないか。 阿呆鳥   いか。 男爵    楽園がどこにあるか、知っているのか? 間抜け面  そ、そんなの決まってるだろ。 阿呆鳥   当たり前だろ。 男爵    知らないんだな。 間抜け面・阿呆鳥  ぐさ 男爵    闇雲に探しているだけだな。 間抜け面・阿呆鳥  ぐさぐさ 男爵    それで見つかると思ってるんだな。 間抜け面  思ってねぇよ。       それに、あんたは楽園のある場所を知っているのか? 男爵    知らん。 間抜け面  知らないんじゃないか。 阿呆鳥   いか。 男爵    知らんからといって、闇雲に歩き回っているのはどうかね? 間抜け面・阿呆鳥  ぐさぐさぐさ。 間抜け面  じゃあ、あんたは闇雲じゃないのかよ。 男爵    私にはこれがある。(と二本の棒を取り出す。) 阿呆鳥   棒っきれ? 男爵    ダウジングだ! 間抜け面  頑張れ、おっさん。(去ろうとする。) 男爵    こらこら、待てい。それに、私はおっさんじゃない。 間抜け面  おっさんでしょーが。どっからどう見てもおっさんでしょーが。 男爵    そんなに老けてるか? 阿呆鳥   うん。 間抜け面  老けてるも何も、あんた、鏡見たことある? 男爵    そこまで言うか? 間抜け面  大体、そんなんじゃあ、闇雲に探しているのと大差ないんじゃないか? 男爵    うむ、私もそう思って、今度はこれを始めた。 阿呆鳥   何、それ? 男爵    タロットだ。 間抜け面  あのなぁ、そういうのを五十歩百歩って言うんだぞ。 男爵    何を言うか。       まぁ、いい。今日は気分が良いからな。 阿呆鳥   そんなもん? 男爵    ついでに、真実の話をしよう。 間抜け面  いいよ、しなくて。 男爵    (無視して)「五十歩百歩」というけれども、五十歩と百歩の差は意外に大きい。       時と場合によっては、決定的な差となる。 阿呆鳥   じゃあ、見せてもらおうよ。その差をさ。 間抜け面  いいよ、見なくて。 男爵    (無視して)では、始めるぞ。   男爵、タロットを始める。なんだかんだやって、一番重要なカードをめくる。 阿呆鳥   これは? 男爵    「別れ」を意味するカードだな。それも、永遠の。 阿呆鳥   ちょっと、ねぇ。 間抜け面  (男爵に)悪いな。占いは良いものしか信用しないんだ。       ほら、行くぞ。 阿呆鳥    うん。奥さん、見つかると良いな。   間抜け面・阿呆鳥、去っていく。   取り残されるほら吹き男爵。 男爵    その前に、チューリップを探さないといけないんだが…   タテタテ、走っている。疲れて立ち止まり、息を吐く。 タテタテ  チクショウ。あの女、やたらめったら追い駆け回しやがって…       (男爵に気付いて)ん?あんた。一つ頼まれてもらえない? 男爵    何です? タテタテ  もうすぐ、横にでっかい女が通るはずなんだ、       そいつに、俺の通った道と違う道を教えてくれない? 男爵    なんだ、そんな事ですか。引き受けましょう。 タテタテ  うっわー、アリガト。ホントありがと、 男爵    …あの、私も一つ聞いてよろしいでしょうか? タテタテ  何? 男爵    紫色したチューリップって、見たことあります? タテタテ  あるぞ。 男爵    本当に? タテタテ  そこら辺に群生していた。       お、やべっ。じゃあな! 男爵    ちょ、そこは、どこです…か?   タテタテ、走り去る。   再び取り残される、男爵。   程なくして、ヨコヨコが走ってくる。疲れて立ち止まり、息を吐く。 ヨコヨコ  チクショウ。あの男、やたらめったら逃げ回りやがって…       (男爵に気付いて)ねぇ、あなた。 男爵    何です? ヨコヨコ  つい今しがた、このあたりを縦にでっかい男が通っていったはずなんだけど。 男爵    縦にでっかい男ですか?       通りましたよ。 ヨコヨコ  どっち行ったの? 男爵    あっち。(と、ヨコヨコが来た方向を指差す。) ヨコヨコ  え?こっち? 男爵    その通り。 ヨコヨコ  … 男爵    … ヨコヨコ  嘘でしょ。 男爵    何故ばれるんだぁ。 ヨコヨコ  ばれるでしょ!あたし、こっちから来たんだよ! 男爵    仕方ない。ばれてしまったお詫びに、一つ。真実の話をしよう。       本当に酔っ払っている人は、「あたし酔ってないよー」とは言わない。       寝ゲロしてる。       って、人の話は最後まで聞くもんだ。 ヨコヨコ  ちょっと、離してよ。 男爵    あなたは、どうして彼を追っているのですか? ヨコヨコ  あいつが逃げるからよ。       だから、あたしは忙しいのよ。       分かった?あいつはどっちに行ったの? 男爵    あっちです。(と、本当の事を言う。) ヨコヨコ  本当? 男爵    嘘、言ってどうするんですか? ヨコヨコ  本当ね。それじゃあ、       って、だから、離してって。 男爵    紫色したチューリップが群生している所って、知りませんか? ヨコヨコ  紫色のチューリップ?       えっと、あー、北の方!じゃあね!   ヨコヨコ、去ってしまう。 男爵    北の方?       来たほうじゃないか…   男爵、しぶしぶ来た道を戻る。   変な音楽が流れ始める。   場所は楽園。   馬鹿正直、やってくる。手紙の構成をしている模様。 馬鹿正直  拝啓、お元気ですか?私は元気です。       本日はお日柄も良く西高東低の気圧配置で明日は雨。       雨のち晴れというくらいだから、きっと明後日は晴れのはずです。 夫人    明後日は雨ですよ。天気予報で言っていました。   朴訥夫人その様子を見ていた様子。 馬鹿正直  朴訥夫人。聞いてたの? 夫人    ええ、良い内容でした。馬鹿さん。 馬鹿正直  (ぐっ)その馬鹿さんっての止めて貰えるかな。 夫人    ああ、少々下品でしたね。       では、お馬鹿さんというのはどうです? 馬鹿正直  馬鹿にしてんの?ねぇ、馬鹿にしてんでしょ。 夫人    馬鹿にしていませんよ。 馬鹿正直  大体、あたしには馬鹿正直って言う名前があるんだから、       上品に言おうと思ったら、もっと、フルネームで呼ばないと。 夫人    元々、下品な名前ですから、どんな呼び方でも同じですよ。 馬鹿正直  (カチン)…夫人は、出したの?招待状。 夫人    出しましたよ。 馬鹿正直  なんって? 夫人    淑女との出会いには贈り物は付き物ですよ。と。 馬鹿正直  催促してるみたい。 夫人    催促しているような文章でしたからね。 馬鹿正直  どんな感じ? 夫人    秘密。 馬鹿正直  秘密って、うわ、キモッ。 夫人    意外と根に持つタイプなんですね。       あの人にそっくり。 馬鹿正直  根に持ってないって、本当に気持ち悪かっただけだから。心の底から。 夫人    そういうのを根に持ってるって言うんですよ。 二人    ふっふっふっ…   二人、冷戦状態。   そこへ、ふたりぼっちがやってくる。 ふたりぼっち 二人とも…(何やってんの?) 夫人・馬鹿正直  ふっふっふっ? ふたりぼっち …そういえば、二人とも、招待状出した? 夫人    早々に出しました。       あちらの方はまだみたいですけど。 馬鹿正直  下品な催促するよりも、もっと上品な形で招待しようと思って。 夫人    招待する相手がいないんじゃないの? 馬鹿正直  いちいちくそムカツク言い方するね。 ふたりぼっち まぁまぁ、二人とも。        で、夫人は誰を招待するの?やっぱり、旦那さん? 馬鹿正直  「元」旦那の間違いじゃないの? 夫人    (カチン) ふたりぼっち …ここも、寂しくなるねぇ。 夫人・馬鹿正直  ? 馬鹿正直  どうして?もうすぐお祭りなのに。       賑やかになっても、寂しくなることは無いと思うんだけど。 ふたりぼっち 気にしないの。        (馬鹿正直に)早く、招待状出すのよ。あなた達が会いたいって言ったんだから。ね、馬鹿。 馬鹿正直  馬鹿ってゆーな。   ふたりぼっち、去る。 夫人    だから、あなたはお馬鹿さんなのよ。 馬鹿正直  馬鹿馬鹿うるさいなぁ。 夫人    …再会の用意は済んでるの? 馬鹿正直  …まだ。 夫人    早く済ませたほうが良いわよ。 馬鹿正直  ねぇ…       どうして、「元」夫と会おうと思ったのよ。 夫人    その、「元」っての外したら答えてあげても良いわ。 馬鹿正直  「元」夫。 夫人    招待状も出してないのに、他人の事なんて考えるもんじゃないわよ。   夫人、去っていく。 馬鹿正直  (呟く)招待状は、出してるんだよ。   暗転 2   それは昔の話。   まだ、馬鹿正直がいたころの話。   間抜け面、警察学校の勉強をしている。   そこへ、馬鹿正直、すっ飛んでくる。 馬鹿正直  大変大変大変よー!       またやったのよ、あの阿呆! 間抜け面  今度は何だ? 馬鹿正直  婦女暴行未遂。 間抜け面  どーせ、未遂だろ。今度は何だ、スカートめくりでもやったか。 馬鹿正直  良く分かったねぇ。 間抜け面  長い付き合いだからな。しかし、 馬鹿正直  しかし、頑張るねぇ、あんたも阿呆も。       だって、あの阿呆が、未遂とは言え九つも犯罪してんだよ。 間抜け面  例えば? 馬鹿正直  死体遺棄未遂。 間抜け面  犬の死体だろ。気持ち悪くなって、途中で止めたんだってな。 馬鹿正直  放火未遂。 間抜け面  コンクリにマッチの火じゃ、分が悪くねぇか? 馬鹿正直  武器準備集合罪。 間抜け面  集まったの一人じゃん。銀玉鉄砲もって。       大体、あいつにそんな度胸ねぇって。 馬鹿正直  だから、大変なのよ。 間抜け面  何が? 馬鹿正直  あの阿呆。ステップアップしてやがる。 間抜け面  スカートめくりでか?まぁ、確かにステップアップだけどもよ。 馬鹿正直  そのうち、殺人とかするかもよ。 間抜け面  まさか。 馬鹿正直  … 間抜け面  ぁれ?お前、今日、仕事じゃなかったっけ? 馬鹿正直  仕事?辞めちゃった。 間抜け面  辞めちゃったって、辞めてどうするんだよ。生活ってものがあるだろーが。 馬鹿正直  …あのね、   と、そこへ、阿呆鳥がやってくる。異様に殺気立って…   手には、穴あけパンチを持って、 阿呆鳥   動くなぁ!動くんじゃねぇ!       動くと、蜂の巣だ。   あっけにとられる二人。 阿呆鳥   手を上げろ!ほら、さっさと上げるんだ!   二人、あっさりと手を上げる。 阿呆鳥   そうだ、それで良い。 馬鹿正直  あのね、阿呆。 阿呆鳥   阿呆って言うなぁ!殺すぞ! 馬鹿正直  殺すとか言うもんじゃないよ。 阿呆鳥   おら、蜂の巣にされたいか! 馬鹿正直  (間抜け面に)あんたも、なんか言って。 間抜け面  なあ、阿呆。 阿呆鳥   阿呆って言うなって言ってんだろう! 間抜け面  そんなん、なったんだな… 阿呆鳥   哀れむな!哀れむんじゃねぇ!おら、とっとと始めるぞ! 間抜け面  穴あけパンチで何をするつもりだ? 阿呆鳥   おめぇのどてっ腹(ぱら)に風穴開けるに決まってんだろ。 間抜け面  無理だ。俺を殺すには、お前は優しすぎる。 阿呆鳥   うるせぇ!何も知らないくせに知った風な口ききやがって! 間抜け面  止めろ!故郷(くに)のお母さんも悲しんでいるぞ! 阿呆鳥   俺に、お袋はいねぇんだよ! 間抜け面  しまった、そう来たか。 馬鹿正直  そう来たかって、何の話? 阿呆鳥   撃つぞ、撃つぞぉ! 間抜け面  撃つんじゃない。 阿呆鳥   バーン。 間抜け面  キーン。(意味不明の防御) 阿呆鳥   ちょっと、それ無しでしょ。もうちょっと、リアルにいかないと。 間抜け面  仕様が無いな。 阿呆鳥   バーン。 間抜け面  ぐはっ! 阿呆鳥   あぁぁぁぁ。撃っちまっただ。おら、撃っちまっただぁ! 間抜け面  俺の事なら、気にするな。こんなもの、オロナイン付けときゃ治る。       そんな事より、待たせてるんだろ。婚約者。 阿呆鳥   あ、はい。 間抜け面  行ってやれ。       さぁ、早く!   阿呆鳥、ぐるっと走り回って、馬鹿正直の前に立つ。 阿呆鳥   君子さん。 馬鹿正直  君子? 阿呆鳥   君子さん。おら、おめぇのことが、(好きだ) 馬鹿正直  婚約破棄。 阿呆鳥   (間抜け面に)刑事さん。おら、振られちまっただぁ! 間抜け面  自首、するか? 阿呆鳥   するだ。おら、自首するだ。 間抜け面  じゃあ、俺の勝ちで良いんだな。 阿呆鳥   いいだ、それでいいだ。 馬鹿正直  もう、そん位で良いんじゃない?   間抜け面と阿呆鳥、急に素に戻って。 間抜け面  良いかもな。 阿呆鳥   負けちゃったな。 馬鹿正直  それが、リアルケイドロ? 間抜け面  そ、リアル。 馬鹿正直  めっちゃ、虚構じゃん。 間抜け面  本当は、もっとリアルになるはずだったんだ。       こいつが根性無しだから。泥棒になれなくて、 阿呆鳥   こいつが教養無しだから。警察になれなくて、 二人    うるさい、阿呆(間抜け)! 馬鹿正直  (言いにくそうに)…ねぇ、あのさ、 二人    何? 馬鹿正直  (急に明るく)あのさ、次、何やるか決めて良い? 阿呆鳥   良いけど、何やるの? 馬鹿正直  リアルかくれんぼ。 阿呆鳥   本当に隠れるの? 間抜け面  それだったら普通のかくれんぼと一緒じゃねぇ? 馬鹿正直  いいから、とっととやるよ。 阿呆鳥   今から? 馬鹿正直  あんた達二人が鬼ね。       ほら、十、数える。   間抜け面、阿呆鳥、納得いかないながらもしぶしぶ十数え始める。   馬鹿正直、二人に寂しそうに手を振って、行く。 二人    はーち、きゅーう、十! 阿呆鳥   どこがリアル? 間抜け面  俺に聞くな。とにかく探すぞ。 阿呆鳥   馬鹿―ぁ! 間抜け面  呼んだって、出てくるか。アホ。   間抜け面、阿呆鳥、馬鹿正直を探し始める。   だんだん日が暮れていく。夕方になり、夜になっても二人は探す。 阿呆鳥   馬鹿ぁ… 間抜け面  呼んだって、出てきやしねぇよ。 阿呆鳥   そろそろ、呼んだら出てこーい。 間抜け面  馬鹿ぁ!   二人、途方に暮れる。 阿呆鳥   あの馬鹿、いないな。 間抜け面  …もう、帰るか? 阿呆鳥   もう、一時間だけ。 間抜け面  もう、夜中だぞ。日付も変わってるし。 阿呆鳥   まだ、明後日になってない。 間抜け面  …馬鹿ぁ! 阿呆鳥   正直者ぉ!   だんだん、暗くなっていって。じきに暗転する。   小さな明かりがともる。   これは今の話。馬鹿正直がいなくなった今の話。 阿呆鳥   なあ、間抜け。起きてる。 間抜け面  起きてるぞ、阿呆。 阿呆鳥   嫌な夢、見た。 間抜け面  俺もだ。       あの馬鹿、夢に出てきやがった。 阿呆鳥   うん。       リアルかくれんぼとか言っちゃって。 間抜け面  本当に、いなくならなくても良いのに。 阿呆鳥   引っ越すんだったら引っ越すって、一言言えば良いのにね。 間抜け面  どうせ手紙よこすんだったら、返信先くらい書いておくもんだぞ。 阿呆鳥   馬鹿だな。 間抜け面  ホント、馬鹿だな。 阿呆鳥   なあ、間抜け。眠れそう? 間抜け面  お前の独り言がうるさくて、眠れそうにない。 阿呆鳥   じゃあ、何か話そうよ。 間抜け面  何かって、何をだよ。 阿呆鳥   そういえば、あの人って、今頃どうしているだろうね。 間抜け面  あの人って? 阿呆鳥   あの、ほら吹きさん。 間抜け面  あぁ。今頃、タロット片手に頑張ってるんじゃないかな。 阿呆鳥   「別れ」、それも永遠の別れ。 間抜け面  当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うだろ。忘れろ。 阿呆鳥   このまま、会えないのかな。 間抜け面  阿呆。会わなけりゃあ別れる事も出来ないだろう。 阿呆鳥   あ、そうだね。 間抜け面  …今日は眠れないな。そういう日だ! 阿呆鳥   何してるの。 間抜け面  出さなきゃ負けよ、最初はグー、ジャンケンポン。 阿呆鳥   (反射的に出して)何するんだ? 間抜け面  リアル楽園探し。       ほら、荷物まとめろ。 阿呆鳥   は? 間抜け面  ジャンケン負けただろ。行くぞ。 阿呆鳥   なんか、当然のことのように言うけど、それって理不尽だよね。 間抜け面  じゃあ、俺だけで行くぞ。 阿呆鳥   分かったよ。   間抜け面、先先行く。阿呆鳥は二人分の荷物をしょって後を追う。   別の場所にて…   タテタテ、逃げ回っている。息をついて。 タテタテ  しつこい女だなぁ。   タテタテ、再び走り出そうとするが、目の前には壁。どうやら袋小路にはまったらしい。   そこへ、ヨコヨコ、走りこんでくる。 ヨコヨコ  グッモーニーン。       とうとう追い詰めた。 タテタテ  お前は、どうして俺を追い回す。 ヨコヨコ  決まってるでしょ。あなたが逃げ回るから。 タテタテ  そうは言うけどな。お前が追い掛け回すから、俺は逃げるんだぞ。 ヨコヨコ  不毛ねぇ。 タテタテ  お前が、足を止めないから不毛なんだ! ヨコヨコ  あなたが逃げるから、不毛なんじゃない。   ヨコヨコ、タテタテに近寄る。 タテタテ  くそっ。来るな触るな近寄るなあっち行け! ヨコヨコ  言って聞くんだったらここまで追ったりしないわよ。 タテタテ  壁ぇ!(と、壁を作る) ヨコヨコ  ふんっ!(と、壁を壊す) タテタテ  絶対壊れない壁!(と、絶対壊れない壁を作る) ヨコヨコ  あらよっと、(と、壁をすりぬける) タテタテ  絶対すり抜けられない壁! ヨコヨコ  んんーー!(苦労しながらも、壁を突破する) タテタテ  チクショウ!おるぁあ!ATフィールド全開っ! ヨコヨコ  懐かしいわね。 タテタテ  どうだ!俺はお前を心の底から拒否ってやる! ヨコヨコ  何かそれでどうなるわけでもないけど、嫌な感じ。 タテタテ  それでも来るってんなら、引きこもってやる! ヨコヨコ  根暗ね。 タテタテ  なんとでも言え!       家で一人でブツブツ言ってるほうが落ち着くんだ、文句あるか! ヨコヨコ  友達いないのね。 タテタテ  いるわい!いっぱいいるわい!        夏目漱石とか、芥川竜之介とか、森鴎外とか、金子みすずとか ヨコヨコ  みんな死んじゃってるじゃん。 タテタテ  死んでない奴もいるわい!       よしもとばななとか、宮部みゆきとか、片山恭一とか、 ヨコヨコ  そういうのを何て言うか知ってる? タテタテ  知ってるわい! ヨコヨコ  あたしが友達になってあげようか? タテタテ  要らないわい!友達なんか要らないわい!       「友達百人できるかな」って、百人いたら鬱陶しいわい! ヨコヨコ  大丈夫大丈夫、あんたに百人も友達できないから。 タテタテ  だぁーっ!少しでも信じた俺が馬鹿だった。       「どうせ私を騙すなら、死ぬまで騙して欲しかった…」       おーいおいおい… ヨコヨコ  ちょっと、そんな泣くもんじゃないよ。       千里の道も一歩からって言うじゃないのよ。 タテタテ  千里の道も一歩から? ヨコヨコ  百人の友達も、一人から。 タテタテ  一人からぁ! ヨコヨコ  そう、一人から。 タテタテ  お前、俺、トモダチ? ヨコヨコ  トモダチ。? タテタテ  トモダチぃ! ヨコヨコ  と、トモダチぃ… タテタテ  トモダチ、トモダチ、トモダチトモダチ、トモダチトモダチトモダチ!   タテタテ、一人ではしゃぎ始める。ヨコヨコ、それに乗ってあげてる。 タテタテ  俺、トモダチ。お前、トモダチ。 ヨコヨコ  トモダチトモダチ。 タテタテ  トモダチ、何して、遊ぶの? ヨコヨコ  お手玉、あや取り、おはじき、 タテタテ  それ全部、一人遊び… ヨコヨコ  じゃあさ、じゃあさ、リアル鬼ごっこ。 タテタテ  いいね、リアル鬼ごっこ。 ヨコヨコ  じゃあさ、じゃあさ、あたし、追い駆けるからね。   タテタテ、はっっとしてヨコヨコから飛びのく。 タテタテ  ちくしょう、危うく騙されるところだった ヨコヨコ  騙されるほうがどうかしてるわよ。 タテタテ  うるさい、黙れ! ヨコヨコ  友達に、黙れなんて言うもんじゃないわよ。 タテタテ  お前なんて友達じゃない! ヨコヨコ  そんなんだから、友達出来ないのよ。 タテタテ  友達なんて、いなくて良いやい。 ヨコヨコ  そんな日陰でひがんでないで、こっち来なよ。 タテタテ  あぁぁぁぁぁ(フラフラと、行ってしまいそうになる。) ヨコヨコ  ほらほら、来い来い。       あぁ、釣り人の気持ちがわかるわぁ。 タテタテ  ふんっ!(と、誘惑を断ち切る。) ヨコヨコ  やっぱり、最後は力ずくかぁ、仕様が無いな。 タテタテ  あ!ユーホーが。 ヨコヨコ  今時そんな子供だましに、 タテタテ  あ!モヒカンの森本レオが。 ヨコヨコ  え?   タテタテ、その隙にヨコヨコの脇を縫って逃げる。 ヨコヨコ  チクショウ、   ヨコヨコ、後を追う。   暗転。 3   それは昔の話。   まだ、朴訥夫人がいたころの話。   ほら吹き男爵、真実の話をしている。 男爵    真実の話をしよう。       私がする真実の話の大半は嘘だ。 夫人    「夕日が赤いのは太陽が吐血したからだ」というのも? 男爵    嘘だ。 夫人    「地球が丸いのは、漫画家(鳥山明)が描きやすいからだ」と言うのも? 男爵    嘘だ。 夫人    「俺、ベギラゴン使えるんよね」? 男爵    嘘だ。 夫人    「あなたが、他の女の人に、チューリップを贈った」と言うのも? 男爵    …嘘だ。 夫人    「俺、一部、カツラなんだよね。」 男爵    あ、それホント。 夫人    「レイガン撃てるんよね」 男爵    嘘だよ。気づけよいい加減。 夫人    「でも、カメハメ波は撃てんのだよ」 男爵    聞く必要ないだろ… 夫人    そうなんですか?カメハメ波、撃てないんですか? 男爵    すまない。と言うか、気付いてくれ。 夫人    じゃあ、ゲッタビームは? 男爵    ごめん、無理。 夫人    ロケットパンチ。 男爵    無理だから。 夫人    (とても残念そうに)全部嘘だったんですね。 男爵    気付くでしょ。普通、気付くでしょ。       …まあ、それがお前の良いところなんだが。 夫人    嘘ばかり言ってないで、たまには本当の事も言ってください。 男爵    ? 夫人    今年は、チューリップの花が綺麗ですね。 男爵    ん?ああ… 夫人    隣の奥さんが、とても嬉しそうに話していましたよ。 男爵    え? 夫人    真っ赤なチューリップをドライフラワーにすると、紫色になるんですね。 男爵    あれは、隣の奥さんの友人がドライフラワーに凝ってるって言うものだから。 夫人    …嘘ばかり言ってないで、たまには本当の事も言ってください。 男爵    分かった、本当の事を言おう。       私が持っていた、チューリップを隣の奥さんが欲しいと言ったから差し上げたんだ。 夫人    ガラにでもなく、どうしてチューリップなんか持っていたんですか? 男爵    お前にくれてやるためだ。 夫人    嘘。絶対嘘ですそんなの。 男爵    ベギラゴンやカメハメ波が信じれて、どうして今のが信じられんのだ? 夫人    だって、あなた、今まで私に贈り物なんてしてこなかったじゃないですか。 男爵    今までベギラゴンやカメハメ波を見せた事も無いぞ。 夫人    あなたが隣の奥さんにチューリップを渡したのは見ました。 男爵    つまり、お前は、私を、疑ってるというわけだね。 夫人    はい、その通りです。 男爵    (嘆息して)この世界のどこかに再会の場所というものがある。       会いたい気持ちを叶えてくれる、再会の場所がある。       それは、人によっては楽園とも呼べるし、人によってはゴミ捨て場とも呼べる。       まぁ、機会があれば、また会おう。(一枚の紙切れを渡す) 夫人    え?これ… 男爵    誕生日プレゼントだ。 夫人    私、十一月生まれですよ。 男爵    クリスマスプレゼントだ。 夫人    3月にクリスマスですか? 男爵    卒業祝い。 夫人    何を卒業すると言うのですか? 男爵    結婚生活。 夫人    … 男爵    分かれようといっているんだ。 夫人    何で、え、だって、 男爵    そんな困った顔をする事はないだろう。       新しく始めたい相手がいるんだろう? 夫人    …知ってたんですか? 男爵    お前はいつもいつも自分に素直に生きてきた。       多分、これからも結局は自分に素直な行動をとるだろう。 夫人    … 男爵    まあ、そういうことだ。 夫人    (呟くように歌う)ハッピーバースデイトゥミー、ハッピーバースデイトゥミー、   夫人、歌いながら去る。 男爵    まあ、嘘なんだけどね。       でも、離婚届渡すのも、婚姻届渡すのも、あんまり変わらんだろう。   男爵、ぼそぼそと歌い始める。 男爵    いつの事だか、思い出してごらん。あんな事、こんな事、あったでしょう。   男爵、眠りに落ちていく。   そして、今の話。   朴訥夫人のいない、今の話。 男爵    寝覚めの悪い夢だ。 ヨコヨコ  ホントにね。 男爵    うおあぅ! ヨコヨコ  そんなに驚く事も無いんじゃない? 男爵    …いつから、ここにいた? ヨコヨコ  三年前から。 男爵    (疲れている)嘘付け。       …寝言とか、言っていなかったか? ヨコヨコ  ミンミンゼミの煮っ転がしが食べたい。 男爵    嘘だ。絶対嘘だ。 ヨコヨコ  じゃあ、 男爵    嘘だ。 ヨコヨコ  まだ話してないよ。 男爵    「じゃあ」って言ってるんだ、嘘に決まっている。 ヨコヨコ  (鼻を鳴らして歌う)いつの事だか、思い出してごらん。あんな事、こんな事、あったでしょう。 男爵    … ヨコヨコ  寝言で鼻歌歌うなんて、珍しいねぇ。なんか良いことあったの? 男爵    寝覚めの悪い夢だと言っただろう。 ヨコヨコ  どんな夢を見ていたの? 男爵    追い駆けなくても良いのか? ヨコヨコ  ほへ? 男爵    縦にでっかい男。 ヨコヨコ  休憩中。 男爵    休憩中? ヨコヨコ  そ、いつもいつも追い駆けてると疲れるでしょ? 男爵    確かにそうだが。 ヨコヨコ  疲れると面白くないから、だから、休憩中。 男爵    そんなものかな? ヨコヨコ  おっさん、面白い事ないのん? 男爵    おっさん? ヨコヨコ  おっさんでも、かもめのジョナサンでも良いでしょう。       無いの?面白い事。 男爵    真実の話。かな? ヨコヨコ  じゃあ、してよ。真実の話。 男爵    真実の、話をしよう。       「竹馬の友」と言えば、無二の親友という意味だが、       「竹馬(たけうま)と友」ならば、タダの友達いないやつだ。 ヨコヨコ  面白い? 男爵    そんな、みもふたも無い事を言うもんじゃない。 ヨコヨコ  私は面白くないんだけど。       そんなに、面白い事? 男爵    そんな、役者をへこませるような事を言うものじゃない。 ヨコヨコ  面白くない事を面白いと言うのって、どうかなぁ? 男爵    どんなに、面白くない事だと自覚していても、お客さんが笑ってくれれば図に乗る。       役者というのはつくづく業の深い生き物よ。 ヨコヨコ  どんなに、不毛な事だと分かっていても、逃げられたら追い駆けたくなる。       これも、業が深いかな。 男爵    不毛な事だと、分かってやっているのか? ヨコヨコ  当たり前田のクリケット。 男爵    懐かしいものを出すな?お前、何歳だ? ヨコヨコ  あたしの体重÷3.14 男爵    お前の体重、何キロだ? ヨコヨコ  レデイに体重聞くもんじゃないわよ。 男爵    @@キロ。(リアルな数字を) ヨコヨコ  そんな、リアルな数字言わないでよ。       もっと、冗談になるラインがあるでしょうが。 男爵    じゃあ、40キロ。 ヨコヨコ  あんた、おちょくってんの? 男爵    何を言うか、私はいつだって大真面目だぞ。 ヨコヨコ  そんな風には見えないけど。 男爵    人を見た目で判断するもんじゃない。 ヨコヨコ  …そういえばさ、見つかった? 男爵    何が? ヨコヨコ  紫色のチューリップ。 男爵    いや、まだだ。 ヨコヨコ  また何で、紫色なんよ。 男爵    紫色のチューリップが欲しいと言われてね。 ヨコヨコ  また、みみっちい物をねだったもんね。もうちょっと、良いものを欲しがったら良いのに。 男爵    まあ、そのみみっちいものが無いんだ。苦労させられるよ。       …楽園も見つかってないし。 ヨコヨコ  楽園? 男爵    知ってるのか? ヨコヨコ  そんな名前のラブホテルなら、       あれ?遊園地だっけ? 男爵    …そのものじゃないのか? ヨコヨコ  楽園なんて、あるわけ無いでしょ。 男爵    夢の無い事言うなぁ。 ヨコヨコ  夢みたいな事ばかり言っている大人がいても迷惑なだけでしょ。 男爵    その通りだな。   ヨコヨコ、屈伸や伸脚をやりながら。 ヨコヨコ  じゃあ、あたしそろそろ行くね。えーと…(名前を呼ぼうとするが分からない) 男爵    ほら吹き男爵だ。 ヨコヨコ  ほら吹き男爵?       ははは、ほら吹き男爵が真実の話してたんだ。 男爵    お前の、名前は? ヨコヨコ  名前?そんなものは無い。       呼びたかったら、好きな風に呼んで。 男爵    好きな風って… ヨコヨコ  じゃあ、あたしは行くからね。 男爵    ああ、   ヨコヨコ、去りかけて、 ヨコヨコ  見つかると良いね。楽園。   ヨコヨコ、去っていく。   取り残される男爵。 男爵    見つかるんだろうかな。楽園。       紫色のチューリップも探さなきゃならんし。       探し物が多いなぁ。       探し物はなんですか?見つけにくいものですか?       かばんの中も、机の中も、探したけれど見つからないのに。       性懲りもなく、まだまだ探す気ですか?   男爵、呟きながら去る。   楽園。   夫人・馬鹿正直出てくる。 馬鹿正直  まだまだ探す気ですか? 夫人    (何かを探しながら)探しますよ。何日だって、 馬鹿正直  何日も探してたら飽きない? 夫人    飽きてしまうようなものだったら、始めから探しません。 馬鹿正直  そりゃそうだ。 夫人    そんな所で眺めてないで、探してください。 馬鹿正直  そんなに大事なものなの?あの紙っ切れ 夫人    そうね。   夫人、馬鹿正直、紙切れを探していると、紙飛行機が飛んでくる。   紙飛行機を追って、タテタテがやってくる。 夫人    (紙飛行機を拾って)これ… 馬鹿正直  何?それ。 夫人    探し物… タテタテ  それ、あんたの? 馬鹿正直  大事なものだったみたいよ。       あーあ、こんなにしちゃって。 タテタテ  アイロンでのばしてみる? 夫人    あなたを展(の)ばしてやりたいわ。薄ぅく。 タテタテ  あ、いや。ごめん、勘弁して。 馬鹿正直  本の間に挟んでおけば、シワ取れるって言うけど? タテタテ  ドモホルンリンクルしておけば、シワ取れるって言うけど? 夫人    誰です?この人。 馬鹿正直  知らない。 タテタテ  名前は無い。勝手に呼んで。 夫人    どうやって、来たんですか?誰かと待ち合わせ? タテタテ  逃げる道理は合っても、待ってやる義理は無い。 馬鹿正直  (夫人に)日本語喋ってるよね。 夫人    分からない事言ってますが、どうやら日本語みたいです。 タテタテ  分からないかなぁ。       人間には、想像力って言うものがあるのよ。 馬鹿正直  じゃあ、ゴジラか何かに追いかけられてんの? 夫人    なんでゴジラ? 馬鹿正直  逃げる道理は合っても、待ってやる義理は無い。 タテタテ  四十点。 馬鹿正直  じゃあ、モスラ。 タテタテ  三十五点 馬鹿正直  @@@@@@@(ヨコヨコと似ているものを言ってください。) タテタテ  惜しい! 夫人    何なんですか? タテタテ  俺も、名前知らないんだよね。       横にでっかい女って読んでるけど。 馬鹿正直  あー、それで「惜しい」… タテタテ  何か、楽しげなところだな。 夫人    楽園ですから。 タテタテ  楽しいんだな。みんなで大騒ぎするんだな。 夫人    大騒ぎはしないと思いますが、 タテタテ  食うもん、無い?腹減った。 馬鹿正直  向こうの方に行ったらあると思うけど? タテタテ  どんなだ? 馬鹿正直  メラポッサ焼き。 タテタテ  …どんなだ? 馬鹿正直  知らない… 夫人    それでは、私たちは再会の準備がありますので。 馬鹿正直  あたしは三分で終わるんだけどなぁ。 タテタテ  カップヌードルでも作るのか? 馬鹿正直  まあ、そんなところかな。 夫人    あなたはそんなところかもしれませんが、私は時間がかかるんです。 馬鹿正直  はいはい。じゃあ、ね。       名無しの権兵衛さん。 タテタテ  頑張ってな。   夫人、馬鹿正直、去っていく。 タテタテ  んー、青い空。白い雲。一面に広がるチューリップ畑。       虹の様なチューリップ畑。       メラポッサ焼きの様なチューリップ畑。       腹減った…なんか食べよ。   暗転。 4   今は昔、ふたりぼっちという名の女がいる。   楽園で、待っている。 ふたりぼっち 今日も、今日とて暇だなぁ。        今日って、何曜日だっけ? 夫人    水曜日です。 ふたりぼっち そうか、水曜日かぁ。あれ、幻聴?        もう、年かなぁ。 夫人    まだまだ、お若いですよ。 ふたりぼっち ありがと、        …やけにはっきりとした幻聴だなぁ。 夫人    幻聴じゃないですよ。 ふたりぼっち ん?(振り向いて)        うおあぅ! 夫人    始めまして、 ふたりぼっち 始め、まして、 夫人    ここは、楽園ですか? ふたりぼっち 楽園?そんなものあるわけ無いでしょう? 夫人    でも、ここに楽園があると聞いたんです。 ふたりぼっち そう呼びたい人間は、呼んでるけどね。 夫人    じゃあ、 ふたりぼっち ここが、楽園らしいね。 夫人    お願いします。 ふたりぼっち 何を? 夫人    え、と、会いたい人がいるんです。 ふたりぼっち 会えば? 夫人    それがとても難しいから、ここまで来たんじゃないですか。 ふたりぼっち ここに来るのも難しくなかった? 夫人    ええ、とても。 ふたりぼっち ここに来るだけの元気があるんだから、会いたい人に会うことも出来るんじゃない? 夫人    それは、そうかもしれませんが… ふたりぼっち じゃあ、そうしたら? 夫人    でも、楽園に行けば… ふたりぼっち 何かをするのは場所じゃなくて人間でしょ。 夫人    …じゃあ、あなたにお願いします。 ふたりぼっち お願いされてもねぇ。 夫人    可能なんでしょう? ふたりぼっち 可能か不可能化といわれたら、可能ね。 夫人    じゃあ、 ふたりぼっち やるかやらないかと言えば、やらないけどね。 夫人    どうしてですか? ふたりぼっち 「どうしてですか?」        じゃあ、一つ聞くけど、どうしてあなたは女なんですか。 夫人    どうして、って… ふたりぼっち ね、諦めなさいな。   夫人、帰ろうとする。   馬鹿正直、やってくる。 馬鹿正直  よーし、楽園ゲットぉ! ふたりぼっち あげないよ。 馬鹿正直  え?ここって、あんたのもの? ふたりぼっち そうみたいね。 馬鹿正直  証明書は? ふたりぼっち そんなものは無いけど。 馬鹿正直  じゃあ、ゲットしても良いじゃん。 ふたりぼっち …好きにすれば? 馬鹿正直  ね、ね、お願いがあるんだけど。 ふたりぼっち 会いたい人がいるんだったら、一人でやりなさい。 馬鹿正直  何でよう。 ふたりぼっち ここまで来る元気があるんだったら、一人で頑張ったほうが確実じゃない? 馬鹿正直  でも、楽園に行ったら、 ふたりぼっち 何とかなるって思った? 馬鹿正直  うん。 ふたりぼっち 何ともならないよ。 馬鹿正直  どうしてよ。 ふたりぼっち また「どうして」? 馬鹿正直  また? ふたりぼっち あちらの人も、同じような用件でしたから。 馬鹿正直  あれ?あなたも? 夫人    はい。 ふたりぼっち いい加減諦めたらいいんじゃない? 馬鹿正直  諦めが良かったら、ここまで来ませんよ。 ふたりぼっち (笑って)確かに。 馬鹿正直  会いたい人がいるんだから、ちゃっちゃと出してよ。 ふたりぼっち ちゃっちゃとって、簡単に言う。 馬鹿正直  出来るんでしょ? 夫人    出来るみたいです。 馬鹿正直  出来ない事やれって行ってるわけじゃないのよ。       出来る事をやって頂戴って言ってるわけよ。 ふたりぼっち それが人に物を頼む態度? 馬鹿正直  何?土下座でもしたらやってくれる訳? ふたりぼっち あんた、名前は? 馬鹿正直  馬鹿正直。 ふたりぼっち 馬鹿? 馬鹿正直  正直。 夫人    馬鹿正直? ふたりぼっち 変な名前。 馬鹿正直  人の名前にケチつける暇があったら、頼み事聞いてよ。 ふたりぼっち 頼み事してるの? 馬鹿正直  してる。思いっきりしてるじゃん。 ふたりぼっち 誠意が無い。 馬鹿正直  あるでしょーが、誠意、あるでしょーが。 夫人    お願いします。 ふたりぼっち お願いされてもねぇ。って言ってるじゃない。 馬鹿正直  楽園なんだから、楽園らしくお願い聞きなさいよ。 ふたりぼっち あたしは楽園じゃない。 馬鹿正直  楽園にいるんだから同じでしょーが。 ふたりぼっち そんな無茶苦茶な。 夫人    お願いできるのがあなたしかいないんですから。お願いします。 馬鹿正直  ほらほら、お願いね。   ふたりぼっち、しばらく考えて、 ふたりぼっち では、あなた達に探し物をしてもらいます。 夫人    探し物? ふたりぼっち この楽園のどこかに、幸せを呼ぶ金貨があります。 馬鹿正直  そんなものは無い。 ふたりぼっち みもふたも無い事言うのね。 馬鹿正直  金貨一枚で幸せ呼べるほど、世の中甘くないのよ。 ふたりぼっち 楽園で頼み事をするのは甘くないの? 夫人    甘くても甘くなくても、お願いします。 ふたりぼっち 速く探しておいで、タイムリミットは一時間後。 馬鹿正直  あるよ。 夫人・ふたりぼっち  え? 馬鹿正直  実はね。ここに来る途中に金貨拾っちゃって。 ふたりぼっち 嘘… 馬鹿正直  嘘言ってどーするのよ。       ほら。   馬鹿正直、そう言って、ポケットから十円玉を取り出す。 夫人    それが、幸せを呼ぶ金、貨? ふたりぼっち ただの十円玉じゃないの。 馬鹿正直  タダじゃないわよ、十円分の価値のある十円玉よ。 ふたりぼっち 十円玉じゃあ、幸せは呼べないわよ。 馬鹿正直  幸せを呼ぶ金貨でも同じ事よ。 ふたりぼっち つべこべ言わずに、とっとと探してきなさい。 馬鹿正直  例えば、       「コーヒー。コーヒー。っと、       (財布の中を見て)あ、110円しかない。あっちゃあ…」       と、突っ込んだポケットの中に、十円! ふたりぼっち 幸せ? 馬鹿正直  幸せでしょーが、めっちゃ、幸せでしょーが。 ふたりぼっち あのね、あたしは、幸せを呼ぶ金貨を探して来てって、言ってるの。アンダスタン? 馬鹿正直  幸せ呼べるでしょーが。 ふたりぼっち 金貨じゃないでしょう! 馬鹿正直  金貨ってのが本質じゃないでしょう!       幸せを呼べるってのが大事なんでしょうが。 ふたりぼっち あんた、ホントにあたしにお願いしたいの? 夫人    お願いします。お願いしたいです。 ふたりぼっち あたしは、今、あんたと話してるんじゃないの。 馬鹿正直  楽園は、楽園だから素晴らしいわけじゃあ、無いでしょう? ふたりぼっち …じゃあ、あなたは守る事ができると言うんですね。 馬鹿正直  何を? ふたりぼっち ここの掟を。楽園の存在を忘れない事を。 夫人    そんな事ですか。それなら、 ふたりぼっち そう言いながら、みんな忘れていったのよ。 夫人    … 馬鹿正直  忘れるかもしれないね。 ふたりぼっち だったら、帰れ。 馬鹿正直  でも、あなたの事は、覚えてると思うんだ。 ふたりぼっち …分かった。分かりました。        誰に会いたいんですか? 夫人    夫に、 ふたりぼっち じゃあ、家に帰れば良いじゃない。 夫人    …「元」夫に。 ふたりぼっち …あなたは? 馬鹿正直  頭の悪い友人。 ふたりぼっち それこそ、簡単に会えそうなものだけど。 馬鹿正直  何も言わずに引っ越しちゃってね。 ふたりぼっち 手紙は? 馬鹿正直  どういうわけか、届かないんだよね。 ふたりぼっち で、今になって、会いたい、と。 馬鹿正直  今更ながらね。サヨナラを言おうと思って。 ふたりぼっち それだけのために、あたしは引きずり出されるわけね。 馬鹿正直  忘れません、勝つまでは! ふたりぼっち 分かってるから。        それじゃあ、あなた達、準備して頂戴ね。 夫人    準備? ふたりぼっち 再会りの準備。 馬鹿正直  再会に準備なんて必要ないじゃん。 ふたりぼっち つべこべ言わない。さっさとやる。 夫人    でも、何をやれば良いんですか? ふたりぼっち 前に来た人は、屋台出してたけど? 夫人    屋台? ふたりぼっち 自分の思ったとおりにやってみたら? 馬鹿正直  思ったとおりにね。 ふたりぼっち そ、ある人は長い長い手紙を書いたし、またある人は大きなくす玉を作った。        屋台を出しても良いし、お芝居をしても良い。        ただ、あなた達の再会にふさわしい事をすれば良い。 夫人    ふさわしい事? ふたりぼっち そうね。 馬鹿正直  …そういえばさぁ、あんたの名前聞いてなかった。       一応、世話になるんだし。なんて名前? ふたりぼっち ふたりぼっち。        そちらの方は? 夫人    朴訥夫人です。 馬鹿正直  改めて、「始めまして」 夫人    よろしくお願いします。お馬鹿さん。 馬鹿正直  あんた、おちょくってんの? ふたりぼっち 再会は、一週間後。それまでに準備を終わらせておく事。        それまでに、招待状。出しておきなさいね。   ふたりぼっち、去る。 夫人    行っちゃいました。 馬鹿正直  招待状って、手紙さえ届かないのに… ふたりぼっち(声) 書くだけ書いたら、あたしが送るから。 夫人    はぁ、ところで何しましょう。馬鹿さん。 馬鹿正直  その、馬鹿さんってのも止めて。 夫人    やっぱり、「お」付けた方がいいですか? 馬鹿正直  止めて頂戴。 夫人    どうしましょう。 馬鹿正直  あいつらが来たら考える。 夫人    会うためにここまで来たのに、「来たら」って言うの可笑しいですよ。 馬鹿正直  世の中そんなに甘くない。 夫人    でも、甘い夢なら見ても悪くないじゃないですか。 馬鹿正直  それに、あいつ等と会ったところで、何をするわけじゃあない。 夫人    でも、 馬鹿正直  朴訥夫人は、どうして会おうと思ったの? 夫人    おかしな話ですよ。       自分から出て行ったのに、自分から戻って来ようとするなんて。       なんて滑稽な。 馬鹿正直  滑稽で良いじゃない。       で、「元」旦那と会ってどうするつもり? 夫人    もう一度、始められたらと思っています。       あと、 馬鹿正直  あと? 夫人    「元」って、嫌に強調するの止めてください。お馬鹿さん。 馬鹿正直  その「お馬鹿さん」っての止めたら、止めてあげる。 夫人    根に持つんですね。 馬鹿正直  自分ではさばさばしてると思うんだけど。 夫人    あと、上から物を言うのも止めてください。 馬鹿正直  その、下から様子伺うの止めたら、止める。 夫人    いい加減にしてもらえませんか? 馬鹿正直  その、「ですます」口調、止めてもらえませんか? 夫人    不毛ですから、止めませんか?馬鹿さん。 馬鹿正直  止める気無いでしょ、あんた。 夫人    あなたが止めないからです。   ふたりぼっち、やってくる。 ふたりぼっち あんた等、何やってるの。 夫人    不毛な口論。 馬鹿正直  愚かな口げんか ふたりぼっち あんた等、やる気あんの? 夫人    ありますよ。 ふたりぼっち ほら、これでも食べて頑張り。 馬鹿正直  何?これ、 ふたりぼっち 楽園饅頭。 馬鹿正直  うわ、インチキ臭ぇ。 ふたりぼっち 楽園ランドグシャとかあるけど? 夫人    お勧めは? ふたりぼっち メラポッサ焼き。 馬鹿正直  何?それ、食べれるの? ふたりぼっち 食べれなくは無い。        それはまるで、彼女の作った不細工なバレンタインチョコのような。 馬鹿正直  どんなだ? ふたりぼっち 湯銭で溶かしてないチョコレートがどんな物か、 夫人    想像に難くないです。 馬鹿正直  で、具体的にどんなの?その、メラ何とかってのは。 ふたりぼっち ま、火は通ってあると思う。 夫人    焼きって言うくらいですからね。 ふたりぼっち さ、忙しくなるよ。 馬鹿正直  渋ってた割にはやけに楽しそうね。 ふたりぼっち (楽しくなさそうに)おー、忙しくなるぞー。 夫人    そういえば良いってものじゃあ。 ふたりぼっち ほらほら、人の事言う暇があったら、自分の事やる。 夫人    そうですね。 馬鹿正直  何やるのか知らないけど、   夫人・馬鹿正直、去る。   ふたりぼっち、一人になる。 ふたりぼっち きっと、忘れてしまうんだろうね。   暗転 5   旅路の途中。   ほら吹き男爵がダウジングをしている。 男爵    こっちだ。いや、こっちかな。   間抜け面、阿呆鳥がやってくる。阿呆鳥は浮かない様子。 男爵    やあ、また会ったね。 間抜け面  あんたに会う為に旅をしてるわけじゃないんだが。 阿呆鳥   何やってるの? 男爵    ダウジング。 間抜け面  どうだ?楽園の場所、分かった? 男爵    こんなので分かったら苦労しない。 間抜け面  そりゃそうだ。 男爵    君達の方はどうだ? 間抜け面  全然、ダメだな。楽園の「ら」の字も見つからない。 男爵    そうか… 間抜け面  ほら、行くぞ。 阿呆鳥   …うん。 男爵    間抜け君。一つ提案があるんだが、 間抜け面  何だ。 男爵    一緒に、探してみないか? 間抜け面  は? 男爵    君たちは闇雲に楽園を探している。       私は、でたらめに楽園を探している。       闇雲に探しても、でたらめに探しても、楽園は簡単には見つからない。 間抜け面  自分の事、良く分かってるじゃん。 男爵    私が考えるに、君たちの闇雲には突破力がある。       そして、私のでたらめには応用力がある。       ならば、 間抜け面  お断りします。 男爵    何でだ? 間抜け面  ふたりで、見つけたいんだ。       できる事なら、二人だけで、見つけたいんだ。 阿呆鳥   見つかるかどうか分かんないけど。 男爵    …ならば、私が勝手に君たちの後をついていくと言うのはどうだ。 間抜け面・阿呆鳥  却下。 男爵    偶然、行き先が同じ 間抜け面・阿呆鳥  却下。 男爵    忍び寄る影 間抜け面・阿呆鳥  却下。 男爵    どうしてそんなに邪険にするのだ? 間抜け面  どうしてそんなに付いて来たがるんだ。 男爵    …本当の事を言おう。       食料が、底を尽きた。 間抜け面  つまり、食料が、底を尽きたんだな。 男爵    つまり、そういうことだ。       だから、 間抜け面  共倒れは嫌だからな。 男爵    そんなつれない事を言うものじゃない。       旅は道連れ、世は情け。 間抜け面  渡る世間は鬼ばかり。 男爵    鬼ばかりでもないだろうが、 間抜け面  本当の事を言おう。       無い袖は触れない。   男爵、固まる。 男爵    無いのか?袖。 間抜け面  無い。まったく無い。 阿呆鳥   冗談抜きで無い。 男爵    こんな時にタチの悪い冗談をつくのは止めたほうが良い。       「俺さ、見ちゃってよ、お前の彼女が浮気してんの。」       「浮気されたんだよ…」       な、止めたほうが良い。実は、どこかに隠してるんじゃないのか? 間抜け面  無いんだよ。 阿呆鳥   冗談抜きで無いんだよ。 男爵    ほら吹き男爵にその程度のほらが… 間抜け面  見てみるか?   阿呆鳥、自分のリュックを男爵に手渡す。   男爵、それをくまなくチェック。 男爵    無い、 間抜け面  さっきから言ってるだろ? 男爵    無いじゃないか!     まったく、闇雲に歩き回っているから、すぐに食料がなくなるんだ。 間抜け面  おっさんだって、でたらめに探してたから、食料が尽きたんでしょ。 男爵    その通りだが…       しかし、どうするのだ?これから。 間抜け面  どうするんだろうな。   三人、途方に暮れる。 阿呆鳥   …帰ろうか? 間抜け面  何、言い出すんだよ。 阿呆鳥   食べ物も無くなったし、 間抜け面  そりゃ、無くなったけど。 阿呆鳥   歩き疲れたし、 間抜け面  そりゃ、歩き疲れたけど。 阿呆鳥   大体、楽園なんてありゃあしないんだよ。 間抜け面  … 阿呆鳥   もう、帰りたい。 間抜け面  俺は、帰らないぞ。 阿呆鳥   …じゃあ、先に帰るから。 間抜け面  良いのか?       俺だけあの馬鹿に会って、楽しいぞ。リアルかくれんぼの続きやっちゃうぞ。       やっと、隠れる番になるんだ。とんでもないところに隠れるぞ。俺は、       楽しいぞ、死ぬほど楽しいぞ。 阿呆鳥   うん、楽しんでおいで。 間抜け面  !       ああ、勝手にしろ!   阿呆鳥、去っていく。それを見ているほら吹き男爵。 男爵    なあ、間抜け君。 間抜け面  間抜けって呼ぶんじゃねぇ! 男爵    間抜け面君。 間抜け面  誰が間抜けだ! 男爵    なあ、目の前の悲しげな男よ。 間抜け面  誰が悲しげだって? 男爵    私の目の前にいる男がな。   間抜け面、男爵の目の前から動く。   男爵、目で、間抜け面を追う。   間抜け面、バックから鏡を出して。 間抜け面  目の前の男ってのは、あんたの事か? 男爵    …そういうことにしておこう。 間抜け面  !…まあ、な。この旅も、俺が無理やり誘ったみたいなものだし。       大体、あいつ乗り気じゃなかったんだよな。 男爵    … 間抜け面  馬鹿から手紙が届いた時だって、「楽園なんてあるわけない」の一点張りで、       でも、夢見ても良いじゃないかって、無理やり引っ張ってきたもんな。       仕様が無い。帰りたくもなる。       あいつにも生活があるし、もちろんあの馬鹿にだってそういうのがあるだろうよ。       腹減ったら食べなきゃいけないし、そのためには仕事しないといけないし。       やりたいこともあるだろうし。 男爵    それでも、君は、一緒が良いんだろう? 間抜け面  …だから、仕様が無いって言ってるだろ。 男爵    それでも、君は、一緒が良いんだろう? 間抜け面  …だから、 男爵    それでも、君は、 間抜け面  うるさいな!一緒が良いに決まってるだろう!       ずっと、一緒にいたんだ。あの阿呆と、馬鹿と、一緒にいたんだ!       今更、なんだよ。何帰ってんだよ。       また三人で馬鹿やるために旅してたんじゃないのかよ!       冗談じゃねぇよ!何が「もう帰る」だよ!甘ったれてんじゃねぇよ!俺だって腹減ってるよ!       腹ペコだよ!だからって、そんなもんかよ!そんなんで良いのかよ!それで満足かよ!       後悔しないのかよ!       …何、言ってんだろ。あんたに言ってもな、 男爵    カウンセラーは、聞くのが仕事だからな。 間抜け面  あんた、カウンセラー? 男爵    ただの、しがない男だ。 間抜け面  ただのしがない男に、何が出来る。 男爵    友達思いの男の憤りを聴くくらいなら、 間抜け面  思ってない。自分勝手なだけだ。 男爵    それでも、一緒にいたいと思うんだろう? 間抜け面  … 男爵    ならば、後は動くだけだ。 間抜け面  でも、 男爵    「でも」や「しかし」を言っているだけじゃ、状況は好転しないぞ。 間抜け面  アザワイズ… 男爵    …行くんだ。 間抜け面  (頷く)   間抜け面、阿呆鳥の後を追う。   男爵も続く。   一方阿呆鳥は、 阿呆鳥   お腹、すいたなぁ。       あ、リュックも置いてきてらぁ。       …間が抜けてるから、間抜けって言うんだよお。   阿呆鳥、ぺたんと座り込む。   そこへ、ヨコヨコがやってくる。 ヨコヨコ  確かこの辺りなんだけどねぇ。       ねえ、あなた。       あなた、あなたってば。       あなた、あなた、あなた、あなた、あーなーたぁー! 阿呆鳥   ん? ヨコヨコ  ここいらで、縦にでっかい男見なかった? 阿呆鳥   見てない。 ヨコヨコ  あんた、元気ないね。       ちゃんと、朝ごはん食べた? 阿呆鳥   食べてない。 ヨコヨコ  じゃあ、これあげる。 阿呆鳥   何? ヨコヨコ  楽園饅頭。 阿呆鳥   楽園? ヨコヨコ  楽園名物、楽園饅頭。 阿呆鳥   楽園、この辺にあるの? ヨコヨコ  ? 阿呆鳥   知ってるんだね。きっと知ってるんだね。そうに違いない。       なあ、間抜け、楽園見つかりそうだよ。あ… ヨコヨコ  どうしたの? 阿呆鳥   何でもない。 ヨコヨコ  何でもなかったら、そんな顔はしないもんよ。 阿呆鳥   生き方の違いについてちょっと激論を交わしてしまって。 ヨコヨコ  意見の食い違いで痴話げんかをしてしまって。 阿呆鳥   激論って言ってるだろう。 ヨコヨコ  どんなうまいこと言っても、物事の本質は変わらないもんよ。 阿呆鳥   意見の食い違いで痴話げんかです。 ヨコヨコ  分かればよろしい。       それで、そんな変な顔してるの? 阿呆鳥   「変」は余計だ。 ヨコヨコ  分かるなぁ。 阿呆鳥   ? ヨコヨコ  分かるな、そういう気持ち。 阿呆鳥   分かってたまるか。 ヨコヨコ  あたしにもね、なんかそういう関係の奴がいるんだけど。       そいつ、逃げてばっかりなのよね。       だから、あたしは追いかけるんだけど、逃げられるとやっぱりそういう感じになるのよ。       まぁ、逃げるほうも、そういう感じなんじゃないかな。 阿呆鳥   自分の思い込みかもしれないよ。 ヨコヨコ  なんかさ、思い込みかもしれないけど、そうだったら嬉しいじゃん。少し、 阿呆鳥   あなたは、どうするの? ヨコヨコ  何? 阿呆鳥   「そいつ」に逃げられて、どうするの? ヨコヨコ  悔しいからね、躍起になって追い掛け回すよ。 阿呆鳥   躍起になって? ヨコヨコ  そうね。 阿呆鳥   … ヨコヨコ  あなたは、逃げる方?それとも追いかける方? 阿呆鳥   分からない。 ヨコヨコ  あっちから来るのがあなたの知り合いなら、あなたは逃げる方ね。 阿呆鳥   え?   間抜け面、男爵、やってくる。 間抜け面  何かさ、無理やり引っ張って来て悪かったな。       ついでだから、楽園まで付き合え。 阿呆鳥   素直に言えよ。       「楽園まで一緒に行こう」って 男爵    後は、楽園を探すだけだな。 阿呆鳥   それはね、この人が知ってると思うんだ。 間抜け面・男爵  え? ヨコヨコ  はぁい。あんた等も、楽園饅頭、食べる? 阿呆鳥   突然で申し訳ないんだけど、案内してもらえるかな。 ヨコヨコ  合点承知。(独り言)どこに?うーん… 男爵    だが、紫色のチューリップが… ヨコヨコ  んー。んー。 阿呆鳥   どうしたの? ヨコヨコ  ここねぇ、何か覚えてるのよ。そう、どっかで誰かに聞かれたんだけど。       えっとね、老けてて、老けてて、老けてる。丁度、この人みたいな…あ! 男爵    私? ヨコヨコ  確か、チューリップ。この辺にある!   ヨコヨコ、向こうのほうに行く。   男爵、付いていく。 阿呆鳥   行ったね。 間抜け面  帰らなくて良いのか? 阿呆鳥   俺が帰ったら、大泣きする奴がいるから 間抜け面  誰が大泣きするか。 阿呆鳥   寂しいでしょーが。 間抜け面  お前もな。 阿呆鳥   寂しいね。 間抜け面  おら、また二人になったんだ。あと一人、連れ戻すぞ。 阿呆鳥   ああ。   そこへ、ふたりぼっちがやってくる。 ふたりぼっち ようこそ、楽園へ。 間抜け面・阿呆鳥  え? ふたりぼっち ようこそ、楽園へ。 間抜け面  楽園って言ったか? ふたりぼっち 朴訥夫人のお知り合いですか? 阿呆鳥   朴訥? ふたりぼっち じゃあ、馬鹿正直のお知り合いですか? 阿呆鳥   知り合い!めっちゃ知り合い! ふたりぼっち そうですか、馬鹿正直は準備がまだです、もうしばらくお待ちください。 間抜け面  準備って? ふたりぼっち お祭りの準備ですよ。 間抜け面  ? ふたりぼっち あたしも、準備があるので。   ふたりぼっち、去る 間抜け面・阿呆鳥  おい!ちょっと、ねえ! 間抜け面  追うぞ、 阿呆鳥   追うって、男爵は? 間抜け面  じゃあ、お前だけ待ってろ! 阿呆鳥   待てよ!もう!   間抜け面、阿呆鳥、ふたりぼっちを追いかける。   そこへ、男爵とヨコヨコが帰ってくる。   男爵、手にチューリップの鉢植えを持っている。 男爵    どうした? 間抜け面  楽園は、近いらしい! 男爵    おい!どこへ行く!   男爵、後を追う。 ヨコヨコ  あーあ、行っちゃった。真実のおっさん。       …真実の話をしよう。       食えば太る。   ヨコヨコ、嘆息して。   暗転 6   楽園にて、ふたりぼっち、鼻歌を歌っている。   そこへ、朴訥夫人がやってくる。   夫人    ふたりぼっち、さん。 ふたりぼっち 準備は出来たの? 夫人    私は。 ふたりぼっち あっちは? 夫人    … ふたりぼっち 一週間後って言ったのに。 夫人    もうしばらく、後に出来ませんか。 ふたりぼっち あたしは良いんだけど、お相手がね。 夫人    お相手? ふたりぼっち 頭の悪い友人。 夫人    もうここへ? ふたりぼっち 苦労してここまで来たんだ、もう待ってはくれないんじゃない? 夫人    そうですね。   そこへ、タテタテがやってくる。 タテタテ  今日だろ? ふたりぼっち あなたも誰かに会いたいの? タテタテ  逃げる道理はあっても、会いたいとは思わない。 ふたりぼっち ? 夫人    なんか、@@@@@みたいなものから逃げているらしいです。 ふたりぼっち そう? タテタテ  メラポッサ焼き、食いたいんだ。 ふたりぼっち 何なのそのふざけた名前は、そんなものあるわけ無いでしょう。 タテタテ  (夫人に)嘘つき。 夫人    ベギラゴンよりはましでしょう。 タテタテ  ? ふたりぼっち もうすぐだって言うのに、 夫人    どちらへ? ふたりぼっち 一度面倒を見始めたものだからね。        最後まで見てあげるのが義務ってものよ。   ふたりぼっち、馬鹿正直の元へ行こうとする。 馬鹿正直  あ、 ふたりぼっち 準備は出来た? 馬鹿正直  あ、その事なんだけどね。 ふたりぼっち 出来てないのね。 夫人    早くしないと、 馬鹿正直  会うの、止めた! ふたりぼっち 止めた? 馬鹿正直  うん、準備、面倒くさいから、止めた。 夫人    何を(言ってるの) ふたりぼっち そう?じゃあ、あなたは再会しなくても良いのね。 馬鹿正直  … ふたりぼっち あんた、その程度の気持ちでここまでやってきたの? 馬鹿正直  そう、だったみたい。 ふたりぼっち …仕方の無い、人間だなぁ。        あぁ、仕方の無い、人間だなぁ。仕方の無い、人間だなぁ!        …仕方の無い、人間だなぁ。(去ろうとする) 馬鹿正直  ちょっと、この人どうするのよ!   ふたりぼっち、行ってしまう。 馬鹿正直  …ごめんね。 夫人    その言葉を、あの人に言って挙げなさい。 馬鹿正直  ? 夫人    招待状、出してるんでしょう? 馬鹿正直  来ないよ。 夫人    来てますよ。 馬鹿正直  え? 夫人    来てますよ。あなたの言う「頭の悪い友人」 馬鹿正直  アホ、マヌケ。 夫人    会って、何かをしようと思って、ここまで来たんじゃないんですか? 馬鹿正直  …そう言えば、初めて会ったときにもこんな会話したね。 夫人    あなたは、「元」夫って嫌味ばかり。       今も、変わりませんけど。 馬鹿正直  あんただって、馬鹿馬鹿言って。 夫人    あれは、わざとじゃないです。 馬鹿正直  嘘つけ。 夫人    その馬鹿馬鹿って言われるのも、もう少しの辛抱ですよ。 馬鹿正直  … 夫人    あなたは、あなたのすべき事を、 タテタテ  なあ、逃げるばっかじゃ、つまらんぞ。 馬鹿正直  別に逃げてるわけじゃ、 タテタテ  いや、俺の話だ。       話したろ?逃げててな、ときどき思うんだ。「何で俺は逃げてるんだろう」        いや、ものすごい形相で追いかけてくるもんだから、逃げたくもなるんだよ。       でも、時々考えるんだ。 馬鹿正直  それで、どうするの? タテタテ  やっぱり、追いかけられたら、逃げるんだろうな。 馬鹿正直  っそ。 夫人    本当に、会わないで良いんですか? 馬鹿正直  … 夫人    今からなら、何とかなりますよ。 馬鹿正直  何とかって?どうなるの? 夫人    それは… 馬鹿正直  馬鹿にしないで。       世の中には何とかならない事のほうが多いの。 夫人    だから、楽園を信じたんじゃないですか。 馬鹿正直  … 夫人    ふたりぼっちの所に行きます。 馬鹿正直  あなただけでも、再会できると良いね。 夫人    待ってますから。   夫人、去っていく。 タテタテ  良いのか?待ってるぞ。 馬鹿正直  知りもしないくせに。 タテタテ  知らないけど、良いのか?待ってるぞ。 馬鹿正直  何が分かるのよ。 タテタテ  何も分からないけど、良いのか?待ってるぞ。 馬鹿正直  分からないんなら、喋らないで。 タテタテ  (クチパクで)良いのか?待ってるぞ。 馬鹿正直  鬱陶しいなぁ、あっち行ってよ!   タテタテ、寂しそうに数歩あとずさる。 タテタテ  来た来た来た来た北の海。       毎々毎日、舞の海。       千代に八千代に千代の富士       朝焼け小焼けだ朝青龍。 馬鹿正直  うるさいなぁ!   タテタテ、我関せずとばかりに一人遊びを始める。 タテタテ  俺な、ときどき感謝するんだ。追ってくれる奴に。       だってさ、追ってくれなきゃ、逃げられないじゃん。       まぁ、本当は追って欲しくないんだけど。どうして追われているのかも分からないけど。       でも、嫌っていうほど追ってくれる奴って、悪くないぞ。 馬鹿正直  … タテタテ  いや、やっぱり悪いもんだ。うん、逃げるに限る。       いや、逃げるばかりじゃダメだな。いや、逃げよう。       なぁ、あんた、どっちが良いと思う? 馬鹿正直  …うるさいな。逃げないほうが良いに決まってるでしょ!   馬鹿正直、行く。タテタテ、追う。   ふたりぼっち、憤りがら出てくる。 ふたりぼっち 人間ってのは、自分勝手な生き物だねぇ。        好き勝手言いやがって…   そこへ、夫人がやってくる。 夫人    ふたりぼっちさん! ふたりぼっち …そうね。あなたの再会があったわね。 夫人    お願いします。       あの、お馬鹿さんを許してあげてください。 ふたりぼっち … 夫人    間違ってるかもしれませんが、       何も考えずに出した答えじゃないと思うんです。 ふたりぼっち そんな事は分かってるの。 夫人    じゃあ、 ふたりぼっち ねえ、夫人。 夫人    はい? ふたりぼっち ここが、どうして楽園って呼ばれているか知ってる? 夫人    楽園は元々楽園でしょう。 ふたりぼっち 例えば、あるところにひとりぼっちの女の子がいました。        女の子には、好きな男の子がいました。        我ながら陳腐ね。もっと気の聞いた物語が浮かばないかな? 夫人    … ふたりぼっち 女の子は、なかなか男の子に好きという気持ちを打ち明けられませんでした。        そうこうしている間に、男の子は遠くに行ってしまいました。        女の子は、男の子に会いたいと思いました。強く強く思いました。        ある日、女の子の住む所にサーカスがやってきました。 夫人    男の子がいたんですね。 ふたりぼっち 話の展開も読まれてるわ。        んで、女の子と男の子は出会いました。 夫人    もしかして、ここが? ふたりぼっち 「例えば」って言ったでしょ? 夫人    …男の子はそれから? ふたりぼっち サーカスが終わると、女の子の前から消えました。        女の子は思いました、「強く思えば願いは叶うんだ」と。        新興宗教万歳。 夫人    新興宗教? ふたりぼっち あ、それ蛇足だから。 夫人    それで? ふたりぼっち おー、こわ。        それで、女の子は思いました。強く強く思いました。        思いは大きく膨らんでどんどん大きくなって、        女の子は思いに押しつぶされて死んでしまいました。 夫人    それで? ふたりぼっち その場所には、女の子の思いだけが残りました。        会いたいと言う思いだけが残りました。        どういうわけか、その場所では偶然の出会いが良くあるらしいです。 夫人    それが、噂となって、楽園になったんですね。 ふたりぼっち まあ、嘘なんだけどね。 夫人    あの人も、そんなくだらない嘘を… ふたりぼっち くだらないとは何よ。 夫人    でも、どんな嘘だって、信じてしまえば真実ですから。   タテタテ、馬鹿正直、駆け込んでくる。 夫人    やっぱり、来ましたね。 馬鹿正直  待たれたら、行かないわけにはいかないでしょうが。 ふたりぼっち 今更ながら。 馬鹿正直  今更ながらなんだけどね。       お願いできるかな。 ふたりぼっち 逃げるんじゃないよ。 馬鹿正直  ごめん、正直分からない。 タテタテ  逃げたら、追いかけられるぞ。僕みたいに。 馬鹿正直  追いかけられるかな? タテタテ  追いかけられる。わけも分からず追いかけられる。       B級ホラーみたいな追いかけられ方する。 ふたりぼっち じゃあ、二人とも、準備しておいで。 夫人    はい。(馬鹿正直に)行きましょうか。 馬鹿正直  うん。   馬鹿正直、去りかけて、 馬鹿正直  アリガト。 ふたりぼっち 礼なら、夫人と、あんたに会いに来てくれた人間に言うのね。   馬鹿正直、夫人、去る。 ふたりぼっち … タテタテ  どうした? ふたりぼっち ん? タテタテ  寂しそうだな。 ふたりぼっち 賑やかな再会の後は、いつも寂しいものよ。        再会が騒がしければ騒がしいほど、楽しければ楽しいほど、        寂しいものよ。 タテタテ  でも、楽しいものは楽しんどかないともったいないじゃん。 ふたりぼっち …そうね。 タテタテ  ん?(と向こうのほうに人影を発見。)       あれ、そうじゃないか? ふたりぼっち 少し、待ってもらう事になるかもしれないわね。 タテタテ  あ!       あわわわわわわわわわ… ふたりぼっち どうしたの? タテタテ  逃げなきゃ、逃げなきゃ、 ふたりぼっち ? タテタテ  あいつが、あいつが来る。 ふたりぼっち あいつ?@@@@@@みたいな? タテタテ  @@@@@@よりはたちが悪い。 ふたりぼっち 来るわよ。あら、あの人たち。 タテタテ  ごめん、背中借りる!   タテタテ、ふたりぼっちの背中に隠れる。   しかし、ふたりぼっちからどうやってもはみ出てしまう。 タテタテ  このチビ! ふたりぼっち チビって何よ!あなたがデカイだけでしょう! タテタテ  ミクロン! ふたりぼっち マクロン! タテタテ  役ただずのどチビ!チビ過ぎるんだよ、牛乳飲め! ふたりぼっち 木偶の棒!でかけりゃ良いってもんじゃないわよ! タテタテ  落ち着け、落ち着け、       ボクが、そこそこでか過ぎて、お前が、そこそこチビなんだよ。       だから、ボクがそこそこ縮んで…       あぁああぁぁぁぁぁ、何馬鹿なことやってんだ! ふたりぼっち ほら、来たわよ。…ちゃんと、追ってきたのね。   間抜け面、阿呆鳥、男爵、ヨコヨコ、やってくる。 ヨコヨコ  あ! タテタテ  ぁ! ふたりぼっち どっから声出してんのよ。 ヨコヨコ  見ぃつけた。 タテタテ  見ぃつかった。 ヨコヨコ  よーい。 タテタテ  (すぐさま)ドン!   タテタテ、一目散に逃げる。   ヨコヨコ、一目散に追いかける。   一同、見てるだけ… ふたりぼっち ようこそ、楽園へ。 男爵    じゃあ、ここが。 ふたりぼっち ええ、楽園と呼ばれる場所です。 間抜け面  あの馬鹿はどこだ? ふたりぼっち 準備中です。 阿呆鳥   準備中?何の? ふたりぼっち あなた達に会うための。 男爵    という事は、私の妻も準備中かな。 ふたりぼっち 「元」じゃないの? 男爵    … ふたりぼっち すぐ戻ってくると思うけど。   タテタテ、一同の目の前を駆け抜けていく。   ヨコヨコ、同じく駆け抜けていく。 ふたりぼっち 彼等の事じゃないわよ。 間抜け面  分かってる。       ここまで来て、何も無かったら冗談にならない。 馬鹿正直(声) 冗談にならなくて残念だわ。   夫人と馬鹿正直が戻ってくる。 馬鹿正直  …久しぶり。 ふたりぼっち (夫人に)何を準備したの? 夫人    心の準備。       深呼吸を数回。 阿呆鳥   久しぶりだな。馬鹿。 馬鹿正直  馬鹿馬鹿言うな。阿呆。 阿呆鳥   相変わらずで。 間抜け面  ホントに… 馬鹿正直  そっちの間抜けも相変わらずみたいね。 間抜け面  … 阿呆鳥   ほら、間抜け。 夫人    ほら、お馬鹿さん。   間抜け面、馬鹿正直、お互いにお互い歩み寄る。 間抜け面・馬鹿正直 あのさ!           あ、いや…そっちから           じゃあ、こっちから、 男爵    どっちからだ? 間抜け面  …おっさん、タッチ。 馬鹿正直  夫人、そっちからどうぞ。 男爵    仕方の無い男だ。 夫人    もう百回くらい、深呼吸してらっしゃい。   男爵、夫人、再会する。 夫人    (何も言わずに、紙を差し出す。) 男爵    ん?       これは… 夫人    あの日から、ずっと使わずに持っていました。 ふたりぼっち 何々。婚姻届じゃない。 夫人    もう一度、 男爵    無理だ。 阿呆鳥   早っ!もう少し考えろよ。 夫人    そうですよね。 ふたりぼっち そんな、簡単に諦めて良いの? 夫人    でも、仕方の無い事かもしれません。       だって、出て行ったのは私の方なんですから 男爵    まあ、人の話は最後まで聞きなさい。       無理だ。(少し考える) 阿呆鳥   これで最後じゃないの。 男爵    真実の話をしよう。       離婚届には夫婦両方の署名が必要だ。       さらに真実を言うならば、離婚していないのに、再婚は出来ない。 夫人    あ… 男爵    どうしても再婚したいんだったら、離婚するか? 夫人    あ、あ、あ… ふたりぼっち 良かったわね。 夫人    (うなずく) 男爵    だったら次は、私の番だな。(と、紫色のチューリップを差し出す。) 夫人    え? 男爵    確かに、私は隣の奥さんに赤いチューリップを渡した。       お前にやろうと思って。用意していたものだ。 夫人    だったら、どうして私に、(くださらなかったのですか?) 男爵    紫色じゃなかったんだ。 夫人    え? 男爵    紫色じゃなかったんだよ。       お前、いつか言っただろう?「紫色のチューリップを貰ったら、とても嬉しいと思います。」って、       だから、お前がいなくなってからずっと、紫色のチューリップを探していた。       そんな折、お前からの手紙が届いた。       やっぱりお前は、紫色のチューリップを欲しがった。       だから、 夫人    ありがとう、ございます。   夫人、チューリップを抱きしめる。男爵、夫人にそっと触れる。 男爵    どうやら、私の番は終わったみたいだぞ。 間抜け面  ぅ、分かってる。分かってるよ。分かっているんだけどな。       ほら、いざって時になると、こう、言葉がシャボン玉のように浮かんでは消え、浮かんでは消え、       でな、 阿呆鳥   覚悟決めたら? 間抜け面  おめぇは、決めたのかよ。 阿呆鳥   決めてるよ。だから付いてきたんじゃないか。 馬鹿正直  (ふたりぼっちに呟く)…ごめん、やっぱり、無理みたい。 ふたりぼっち ちょっと、何、言ってるの!?   馬鹿正直、とたんにきびすを返して猛ダッシュ。 間抜け面  ぁんの馬鹿!   間抜け面を筆頭に、一同追いかける   暗転 7   タテタテ、出てきたと思ったら去る。   ヨコヨコ、それを追いかける。   馬鹿正直、逃げる。逃げる。   間抜け面、追いかける。追いかける。   阿呆鳥、男爵、夫人、ふたりぼっちもそれぞれ追いかける。   逃げる人、追う人、いっぱいの人たちがいっぱいいっぱいになりながら走る。   やがて、人はいなくなり、タテタテが様子を伺いながら登場 タテタテ  いない、いない、   馬鹿正直、走ってくる。 馬鹿正直・タテタテ  おうあお! タテタテ  あ、お前か。       やっぱり逃げたんだな。 馬鹿正直  それはこっちの台詞。 タテタテ  いい加減、逃げるのも疲れないか? 馬鹿正直  それもこっちの台詞。 タテタテ  止めようと思うんだ、逃げるの。 馬鹿正直  それも…       馬鹿なことは止めなさい。 タテタテ  止めない。 馬鹿正直  あたし一人で逃げろって言うの? タテタテ  じゃあ、一緒に来れば良い。 馬鹿正直  …逃げる。追いかける? タテタテ  追いかけない。と、思う。   馬鹿正直、逃げる。 タテタテ  ボクも、逃げない。と、思う。   そこへ、間抜け面走ってくる。 間抜け面  馬鹿は? タテタテ  あっち。   間抜け面、走り去る。阿呆鳥、走ってきて 阿呆鳥   馬鹿は? タテタテ  あっち。   阿呆鳥、走り去る。   以下、ふたりぼっち、男爵、夫人、ヨコヨコと立て続けにやってきて、馬鹿正直の逃げた方向を聞く。   あまりに立て続けなので。 タテタテ  ばーかーはーあーっちーでーす!   一同、走り去る。   取り残される、タテタテ。 タテタテ  ちょっと、みんな?   タテタテ、嘆息して後を追う。   馬鹿正直、逃げる。間抜け面、阿呆鳥、ヨコヨコ、ふたりぼっち、タテタテ、男爵、夫人の順で追いかける。   夫人、とまって。 男爵    どうした? 夫人    聞かないんですね。私があの後何をしていたかを。 男爵    聞く必要が無いからな。 夫人    どうして? 男爵    どういう経緯であれ、お前は私をここに呼んだ。それで充分だ。 夫人    気に、ならないんですか? 男爵    気にしても仕様が無い。昔の事だからな。       思い返せばきりがない。 夫人    でも、思い返さなければ味気ないものでしょう? 男爵    …そうかも、しれんな。   男爵、夫人、追う。   馬鹿正直、逃げる。間抜け面、阿呆鳥、ヨコヨコ、ふたりぼっち、タテタテ、男爵、夫人の順で追いかける。   間抜け面と阿呆鳥の差が開く。阿呆鳥とその他の差ももっと開く。   馬鹿正直出てきて息を切らす。   後を追ってきた間抜け面と出くわす。 馬鹿正直  間抜け… 間抜け面  リアルかくれんぼは、見っかった時点で終わりじゃないのか? 馬鹿正直  … 間抜け面  まあいいや、話があるんだ。       なあ、一緒に帰ろう。 馬鹿正直  無理。 間抜け面  一緒に、帰ろーよー! 馬鹿正直  駄々こねたって、無理。 間抜け面  どうして? 馬鹿正直  どうしても。       ねえ、あたしがどうして楽園に来たか分かる? 間抜け面  分かるわけないじゃん。 馬鹿正直  正々堂々とあなた達に「サヨナラ」って言うためよ。 間抜け面  ! 馬鹿正直  サヨナラ。 間抜け面  …どうして? 馬鹿正直  どうして?理由を聞いてどうするつもり?       人にはそれぞれの事情があるのよ。 間抜け面  お前にも、あるのか?その事情が。 馬鹿正直  それなりにね。 間抜け面  …俺達な、お前がいなくなって、何かがらんどうになって、       何か失くしたみたいなんだよ。そんな失くしたもんってのは大切だろ?       たんすの裏とかにありゃあ良いんだけどさ。そうもいかないじゃん。       だから、ここまで来たんだ。       だって、だって、うまく言えないけど。       …失くしたもんは尊いよ! 馬鹿正直  失くした物は、尊いよね。 間抜け面  だろ? 馬鹿正直  でもね、それで手に入ったものも、同じくらい尊いと思うんだ。 間抜け面  …何が、手に入ったっていうんだ… 馬鹿正直  あたしね、今、宿場で働いているの。そこのオーナーが良い人でね。       いつも、三時のおやつ持ってきてくれんの。       厨房のおっちゃんは一見、気難しい感じなんだけど、とても優しいし。       同僚とも仲良くやってるよ。       あ!あたしね、告られたんだ。こんな顔のでっかい奴に、ね、こんなだよ。 間抜け面  もういいよ。何でそんなに楽しそうなんだよ、お前は…       俺達のいない生活が、そんなに楽しいかよ。 馬鹿正直  いつの間に、そんなにひねくれたの?       …あたしね、あんた等に会うために必死こいて楽園探したんだよ。       ふたりぼっちは「自分で探せば?」の一点張りで、       でも、あんた等に会いたかったから、会ってきっちり「サヨナラ」言おうって思ったから、       ま、途中、逃げちゃったけど。       それでも、やっぱり、サヨナラ言わないとって思ったから、       こうして、あんたと喋ってる。…半ば喧嘩腰で 間抜け面  …   阿呆鳥、やってくる。 阿呆鳥   馬鹿! 馬鹿正直  馬鹿馬鹿、うるさい… 阿呆鳥   俺は、この間抜けよりも物分り良いほうだから、       何となく分かるんだけど。       それでも、やっぱり俺等は、追いかけちゃうんだよ。 間抜け面  阿呆。止めとけ。 阿呆鳥   でも、 間抜け面  今、手に入れてるものが尊いんなら、それを大事にすりゃあ良い。       でも、でも、       失くしたもん切り捨てんなよ! 馬鹿正直  … 間抜け面  同じくらい尊いんだろ?       同じくらい尊いんだったら…同じくらい尊いんだったら!       同じくらい、大事にしろよ!だって… 馬鹿正直  だって? 間抜け面  …寂しいだろうが。 馬鹿正直  でも、やっぱり「サヨウナラ」って言わなきゃって思うんだ。 阿呆鳥   …馬鹿野郎。   他の面々、やってくる。 ふたりぼっち 馬鹿。 夫人    お馬鹿さん。 馬鹿正直  …馬鹿馬鹿うるさいってば… ふたりぼっち 再会は、出来た? 馬鹿正直  (うなずく) ふたりぼっち そ、良かったね。        じゃあ、もうここには用は無いね。        …行きなさい。 夫人    でも、それではあなたが、 ふたりぼっち 一人には、慣れてるから。 馬鹿正直  一人じゃないでしょーが。 ふたりぼっち え? 馬鹿正直  あたしたちが覚えていたら、一人じゃないでしょーが。 ふたりぼっち …なんで 馬鹿正直  ? ふたりぼっち 何で、そんな優しい言葉かけてくんのよ!        一人よ。どうしようもなく一人よ!だって、忘れられてしまうもん。 夫人    でも、いろんな人が尋ねてくるんでしょう?       だったら、一人くらい ふたりぼっち 例外なく、忘れていったわよ。 馬鹿正直  忘れないって言ったでしょーが。 ふたりぼっち 気休めでしょう!もう嫌なのよ!寂しいのは…! 阿呆鳥   …あのさ、良くわかんないんだけど。       でも、あんたは覚えてるんだろう? ふたりぼっち (頷く) 阿呆鳥    だったら(寂しくないんじゃないか?) ふたりぼっち だから、寂しいんじゃないの。        忘れられた事も知っていながら、女々しく覚えていて、そんな記憶にすがってしまう自分が寂しいじゃないの。 阿呆鳥   …それは、素敵な事だと、俺は思うよ。 ふたりぼっち …!   男爵、ふたりぼっちの前に立ってあたりを見渡しながら。 男爵    真実の話をしよう。       逃がした魚は大きいと言うが、釣った魚もそれはそれで良いものだ。       逃がした魚の事を思う人もいる。       釣った魚で満足できる人もいる。       どちらにせよ、目の前には釣った魚しかないわけだ。 ふたりぼっち … 間抜け面  まともな事もいえるんだな。 男爵    最後だからな。 間抜け面  最後じゃないかもしれないぞ。 男爵    …そうだな。(夫人に)さ、行こう。   男爵、夫人。去る。 阿呆鳥   俺達も行くか。 間抜け面  ああ、 ふたりぼっち 気をつけて。 阿呆鳥   大丈夫。何とかなる。 馬鹿正直  … 間抜け面  じゃあ、な。 阿呆鳥   帰るよ。俺達。 馬鹿正直  (うなずく)   間抜け面、阿呆鳥。去る。   馬鹿正直、その背中に向かって。 馬鹿正直  久しぶり、さようなら! ヨコヨコ  行ったねぇ。 タテタテ  行ったなぁ。 馬鹿正直  あんたら、いつの間に仲良くなったのよ。 タテタテ・ヨコヨコ  いつの間にか。 馬鹿正直  シンプルだなあ。 ふたりぼっち ほら、行きなさい。 馬鹿正直  行くよ。   馬鹿正直、去る。   取り残される、ふたりぼっちとタテタテ・ヨコヨコ。   タテタテ、ヨコヨコ、走り回っている。   暗転。 8   ふたりぼっち、座って鼻歌っている。 ふたりぼっち いつの事だか、思い出してごらん。あんな事、こんな事、あったでしょう。   そこへ、馬鹿正直、やってくる。ゆっくりとふたりぼっちの目の前に立つ。   ふたりぼっち、歌い続ける。 馬鹿正直  会いたい奴がいるんだ。楽園なら、楽園らしく会わせろ。 ふたりぼっち (歌い続ける) 馬鹿正直  失ったものは尊いんだぞ。 ふたりぼっち (歌い続ける) 馬鹿正直  手に入れたものも尊いんだぞ。 ふたりぼっち (歌い続ける) 馬鹿正直  聞いてんの?ふたりぼっち。 ふたりぼっち (静かに顔を上げて)聞いてるわよ。        でもね、失わずに手にし続けているものも、結構良いものよ。 幕