「元」、宝物。 a 登場人物 チビ1 チビ2 掘り起こす者「犬」 埋めてしまう者「猫」 考え続ける男(以下、男) 0/1   とある場所。チビたち、何かにお祈りをしている。   切り上げるように、元気な声で、 チビ1・2  行ってきます! 0/2   別な場所。犬、スコップを持っている。   で、お宝を掘り起こそうとしている。   横で、猫が、その穴を埋めようとしている。 犬    お前、何してる。 猫    見りゃあ、分かるだろ。 犬    埋めてるように見えるが、 猫    埋めてる。 0/3   夢見心地の無限回廊の中で男は呟く。 男    今日の夕飯の献立についての憂鬱をいかにして無くすか、それが問題だ…      (雑誌に目を落として)ん?レバニラ炒め…   暗転 1/1   チビたち、宝物を探す道中。   紙切れを持っているが、どうやらそれが宝の地図らしい。 チビ1  ねえ、チビ チビ2  何、チビ チビ1  チビって言うな チビ2  チビって言うな。 チビ1  だって、チビじゃん。 チビ2  お前だってチビじゃん。 チビ1  あたしは良いの。女だから。 チビ2  俺だって良いの。牛乳嫌いだから。 チビ1  それ理屈? チビ2  屁が生えた程度の理屈。      で、何? チビ1  本当に、コッチでいいの? チビ2  本当に、コッチで良いのかと聴かれると怪しいくらいの自信はある。 チビ1  頼りない… チビ2  もとはと言えばお前が! チビ1  知ーらない。 チビ2  飛行機雲が西の空にかかってるから西に違いないとか、      今日は東の気分だから東だとか、 チビ1  AB型なんだもん。 チビ2  今日は東へ、明日は西へ、      で、結局進んでないじゃん。 チビ1  立ち止まってばかりってわけでもないじゃん。 チビ2  進んでいることは進んでるって言いたいんだろ? チビ1  そのとーり。 チビ2  で、今日はどっちに進むんですか?気分屋のチビ。 チビ1  どっちに行っても文句言うんでしょ?酒乱のチビ。 チビ2  酒乱は余計だ! チビ1  気分屋も余計だ! チビ2  だって事実じゃん。 チビ1  だって事実じゃん。 チビ2  事実だからって、何でも言って良いもんじゃあないだろ? チビ1  じゃあ、嘘言っても良いの? チビ2  そういう意味じゃなくって! チビ1  女狂いのチビぃ!! チビ2  何、言ってるの! チビ1  女の子、嫌い? チビ2  好きか嫌いかと聞かれると… チビ1  どっち? チビ2  今日はコッチね!   といって、強引に進もうとする。 チビ1  ちょっと、待ってよ! チビ2  何? チビ1  …見つかるかな? チビ2  見つかるかな? チビ1  あいつも、ややこしいことしてくれるよね。 チビ2  全くだ。      …おとなしく墓ん中入ってりゃ良いのに、 チビ1  …そだね。 チビ2  よし、行くか!   チビたち、走り去る。 1/2   別の空間にて   犬と猫が争っている。 猫    おい、犬! 犬    おい、猫! 猫    不意打ちとは卑怯な! 犬    じゃあ、予告すれば良いんだな。      殴るぞ!   猫、犬の攻撃をかわす。 猫    そういうのを不意打ちって言うんだ! 犬    じゃあ、どういうのが不意打ちじゃないんだよ! 猫    こういうの。   犬、猫の攻撃をかわす。 犬    危ねえじゃねえか! 猫    そりゃ、これで殴りかかってるんだ、危ないに決まってるだろう。 犬    そういう、当たり前の事を当たり前に言うお前が、俺は大っ嫌いなんだよ!   猫、犬の攻撃を受け止める。 犬    で、俺は、何でお前と喧嘩してるんだ? 猫    これが喧嘩かどうかはさておき、      俺は、お前のそういうところ、結構好きだぞ。 犬    気持ち悪いこというな。 猫    ただのじゃれ合いなら勘弁してくれないか?      俺も何かと忙しいんでな。 犬    あ、ああ…   猫、去って行こうとする。   去り際に、 猫    おそらく、98パーセントの確率で言えることだが、 犬    何だ。 猫    お前の怒っていた理由を知りたければ、後ろを見ると良い。 犬    ん?   犬、振り返る。と、そこには綺麗に埋められた穴。 犬    あ!埋めやがって!   しかし、猫はもういない。   犬、猫を追って去る。 1/3   考え続ける男、世界について考えている。 男    俺にとって、世界について憂うことと今日の夕飯の献立を憂うことは同じことだ。      なぜなら、どちらも俺にとって重要であるし、どちらも俺にとって本当にどうでも良いことだからだ。      強いて、違いを挙げるなら…      世界についての憂鬱は夕飯の献立についての憂鬱ほど、簡単には無くなってくれない。   と、そこへ、チビたちがやってくる。 チビ2  おい、チビ。 チビ1  何?チビ。 チビ2  一つだけ聞くぞ。チビ。 チビ1  チビチビうるさいなぁ。チビ。 チビ2  とても重要なことだ。 チビ1  何? チビ2  ここ、どこ? チビ1  どこかも分からずに歩いていたの? チビ2  違う!気がついたらどこか分からないところにいただけだ! チビ1  同じじゃん。 チビ2  (あらぬ方向へ)ここ、どこですかぁ? チビ1  誰に聞いてんの? 男    ここは、「白の草原」だ。 チビ1  白の草原? 男    そう、 チビ2  白の草原って、どこ? 男    … チビ2  そもそもな話、あんた誰? 男    男だ。 チビ1  そんなの見りゃ分かるって、 チビ2  こんな何も無いところで何をしてるんだ? 男    考え事を、している。 チビ1  考え事、ねぇ… 男    お前たちは何をしている。 チビ2  俺達?      俺達は、宝物を探している。 男    宝物?なぜ? チビ1  色々と、訳ありなのよ。      ところで、「無限回廊の洞窟」って知ってる? 男    ああ… チビ2  知ってるのか? 男    あそこは、私の第四の別荘だ。 チビ1  別荘って…      洞窟なんでしょ? 男    ああ、天然の鍾乳洞だ。      そこにあるのか?その…宝物が、 チビ1  らしいんだけどねぇ… チビ2  俺達もこの目で見たわけじゃないし。 男    そうか…      で、私は案内すれば良いのか? チビ1  そうしてくれるとありがたいんだけど チビ2  初対面で、こんなこと頼むのは申し訳ないんだけど、 男    気にすることは無い。      それに、止まっていようが、歩いていようが、考えることは出来るからな。 チビ1  ありがと。 男   それから、一つ。      これからお前たちが向かうのは「無限回廊の洞窟」だが、正式にはこう言う。 チビ2  何だよ。 男    夢見心地の無限回廊の洞窟 1/4   別の空間。犬を振り切った猫、呼吸を落ち着ける。   と、犬がやってくる。 犬    見つけたぞ! 猫    またお前か… 犬    他人の穴、勝手に埋めといて「またお前か」は無いだろう! 猫    お前は性懲りも無く、どうして掘りたがる。 犬    それが俺のライフワークだからな。 猫    誰が決めた? 犬    俺、 猫    本当か? 犬    嘘だ。 猫    どっちだ? 犬    本当はある人に決めてもらった。 猫    自分のことくらい自分で決められないのか? 犬    じゃあ、お前は決められるのか? 猫    全てを自分ひとりで行なうのは非常に困難だ。 犬    何だ、お前だって同じじゃん。 猫    根本的に違う。 犬    何が違うって言うんだ。 猫    俺はそれを分かっている。お前は分かっていない。 犬    分かっていりゃ良いってもんでもないだろ。 猫    無知は…罪だ。 犬    それだったら、頭でっかちだって罪になるんじゃねぇ?   猫、ため息をついて、スコップを構える。 猫    お前とは、一度ちゃんとケリをつけておいたほうが良いらしい。 犬    インテリの猫さんがそんな野蛮な台詞を仰るとは珍しいですな。 猫    皮肉か? 犬    おうよ。 猫    皮肉と嫌味と陰口は俺の専売特許だ。 犬    根暗ぁ… 猫    いくぞ!   猫、犬に攻撃を仕掛ける。   犬、それを避け、受け流し、あるいは受け止める。   戦いながら、二人の会話は続く。 犬    お前らしくないな。こんなムキになって 猫    ムキになど、なっていない! 犬    いつもだったら「この戦いは不毛だ」とか言うくせに 猫    うるさい! 犬    どうしてお前は埋めていく。 猫    それが、俺のライフワークだからだ。 犬    俺と同じじゃねぇか。 猫    違うといっているだろう!   猫、渾身の一撃。それを犬は受け止める。 猫    お前は、何も知らないし、何も分かっちゃない。 犬    確かに、俺は無知かも知れねぇし、お前ほど頭もよくない。      だが、何も感じないわけじゃないんだよ。 猫    … 犬    先の戦争じゃ、俺は死体処理班にいた。 猫    …俺もだ。 犬    お前もか? 猫    第三班だ。 犬    俺は第一班だ。墓ぁ、掘ってた。 猫    そうか…      それで、どうして掘り起こそうとする!(攻撃) 犬    (それを受け止めて)言っただろ。      それが俺のライフワークだからだ! 猫    お前も見ただろう。      ダメな映画を盛り上げるかのように簡単に人が死んでいくのを 犬    …お前は、それを埋めていたんだな。 猫    (吐き捨てるように)…そうだ。   暗転 2/1   チビたち、昔を思うように話している。 チビ2  あいつは、一年前に戦争に行った。      「大切なものを守る」とあいつは言っていた。 チビ1  あいつは、箱になって帰って来た。      宝物を入れた箱のようになって帰ってきた。 チビ2  箱の中には小さな白いかけらと、一通の手紙が入っていた。 男    愛すべきチビたちへ。      すまない。俺はもうだめかもしれない。      戦況は悪くなる一方だし、仲間達も一日に一人ずつ消えていく毎日だ。      俺もそろそろ覚悟を決めておいたほうが良いと思う。      そこで、キミ達に頼みごとをしたい。 チビ1  そこには、宝物を探して欲しいという旨と、宝の地図が書かれていた。 チビ2  そして最後に、あいつらしい癖字であいつらしいへんてこな文章が書かれていた。 男    宝物は待っている…      その存在を変えながら      存在する場所を変えながら      それは、遠い記憶の中にあったり、      通学路の近道の途中にあったり、      あなたと私の関係の中にあったりする。      私は宝物を掘り起こす。      遠い記憶を掘り起こす。      あなたと私の関係を掘り起こす。      宝物は見つからない。      どこにあるのか分からない。      「そんなものはない」と言う人がいる。      「そんなものがあると良いね」という人がいる。      私は途方に暮れる。      あるはずもなく、ないはずもない宝物を探して、      宝物は途方に暮れる。      いつまでも終わることのないかくれんぼを続けて。      だけれど、宝物は待っている。      その存在を変えながら      存在する場所を変えながら。 チビ1  あたしは探す。 チビ2  俺は探す。 チビ1  探すよ。チビ チビ2  探すぞ。チビ   チビ達、墓前に手を合わせて… チビ達  行って来ます! 2/2   男、チビ達の昔話を聞いていた様子。 男    それで、宝物を探しているというわけだな。 チビ2  そゆこと。 チビ1  でもね。肝心の場所が分からなくてね。 チビ2  このチビ、方向音痴だし。 チビ1  このチビ、地図読めないし。 チビ1・2  チビって言うな! 男    お前たちはいつもそんなに賑々しいのか? チビ1  賑々しい? 男    賑やかって事だ。 チビ2  賑やかかな? 男    やかましいとも言う。 チビ1  やかましい?そんなに? 男    別に良いが、考え事の最中は静かにして欲しい。 チビ達  分かった。 男    じゃあ、今から俺は考え始める。 チビ1  何について? 男    よりよく生きるためには何をすべきかって事だ。 チビ2  何のために? 男    より良い生き方をするためだ。 チビ1  より良い生き方って何? 男    だからそれを考えると言っているだろう。 チビ2  何か、矛盾してねぇ? チビ1  あたしもそう思った。 男    もう良い。   と言って、どこかへ行こうとする。 チビ1  どこ行くの? 男    散歩。 チビ2  付いて行こうか? 男    いい…   男、去っていく。 チビ1  ねえ、チビ。 チビ2  何だ?チビ。 チビ1  より良い生き方って何? チビ2  俺が聞きたいよ。      …どうしてそんな事聞くんだ? チビ1  あいつは、何のために箱になって帰ってきたのかと思って、   と、そこへ、犬がやってくる。   おもむろに近くを掘り始める。 犬    よいこらしょっと チビ2  何してるんだろう。 チビ1  見たまんまじゃない? チビ2  掘ってるように見えるけど 犬    そう、掘ってる。 チビ2  え?聞こえてた? 犬    この距離だ。 チビ1  そりゃ、聞こえるね。 チビ2  何してるんだ? 犬    だから、掘ってる。 チビ2  そうじゃなくって、何のために掘ってるんだ? 犬    ライフワークだ。それ以上でもそれ以下でもない。 チビ1  ライフワーク? 犬    そ。      知らない?ライフワーク。 チビ1  知ってるけど… 犬    見かけない顔だな。名前は? チビ1  こいつはチビ。 チビ2  こいつはチビ。 犬    そうか、チビか。      って、二人とも? チビ達  文句ある? 犬    無いけどよ。呼びにくくねぇか? チビ1  じゃあ、チビ(男)とチビ(女)って呼べば良い。 犬    学校の出席とるんじゃねぇんだから。 チビ2  分かれば良いんだって。      あんた、名前は? 犬    犬、だ。 チビ達  犬? 犬    犬だ、   チビ2、おもむろにポケットから何かを出し、犬に匂いをかがせようとする。 チビ2  (あらぬ方向へ投げながら)ほーら、取っておいで。 犬    なめてんのかコラ! チビ1  怒った… 犬    怒るわ、そりゃ!      ホントに…   犬、掘った中から一つの木箱を取り出し、中にある紙切れを見る。 犬    またか… チビ1  何?   チビ1、犬から紙切れを受け取り、 チビ1  はずれ… チビ2  何?はずれって? 犬    俺に聞くな。      はずれははすれなんだろう。      じゃあ、な。 チビ1  どこ行くの? 犬    俺がどこ行こうが、俺の勝手だ。 チビ2  そりゃそうだ。   犬、「じゃあ、な」と言って去る。   チビ達、おもむろに穴に入る。   そこへ、猫がやってきて。 猫    また掘りやがって、   と、埋め始める。 チビ達  だーーーーっ!わー! 猫    ? チビ2  埋める気か! 猫    いたのか… チビ1  「いたのか」じゃ無い! チビ2  死にそうだったんだぞ! 猫    すまん。小さくて見えなかった。 チビ1  あやまる気、あるの? 猫    すまん。      急いでるんで、これで失礼する。   猫、去る。チビ達砂を払ったりする。 チビ2  ぺっぺっぺっ…      砂食っちまった。 チビ1  気持ち悪い。 チビ2  気持ち悪いついでに…      みみず! チビ1  だーーーーー!わーーーーー!   チビ1、ひとしきり驚く。それを見て笑う、チビ2 チビ1  馬鹿!   チビ1、怒って去る。チビ2、後を追う。 2/3   別の空間に男、宝物に向かって喋る。 男    宝物はあるはずも無く、無いはずも無い      そうだろう?それが真実だ。      でも、ようやく戦争が終わったんだ、そろそろ姿を見せても良いんじゃないか?      まあ、そんなご時世ではないだろうが、      そんなご時世だからこそ、あんたの存在が必要なんだ! 2/4   別の空間に犬、やっぱり掘っている。   そこへ、猫 犬    (掘りながら)またお前か、今日はよく会うな。 猫    別に、会いたくて会ってる訳じゃない。 犬    俺もだ。 猫    性懲りも無く掘っているのか? 犬    ライフワークなんでな。 猫    俺も、ライフワークをやるとしよう。   犬、スコップを猫に突きつける。 犬    よそでやりな。 猫    穴が無い。 犬    それで良いじゃないか。あんたは… 猫    目の前に穴がある。だから埋める。 犬    よそでやれって言ってるだろう!   犬、攻撃。猫、避ける。 猫    お前は、何を探している? 犬    何も探してない。 猫    だったら、どうして掘る? 犬    俺のライフワークだからな。 猫    お前は、最後の宝物を探してるんじゃないのか。 犬    … 猫    俺は、お前のその分かりやすいところ、結構好きだぞ。 犬    気持ち悪い事言うな… 猫    探しても見つかりはしない。 犬    探して探して、見つかれば儲けもんだろ? 猫    この世界には、見なくて良いもの、知らなくても良い事実と言うのがあまりにも多すぎる。 犬    無知は罪になるんじゃなかったのか? 猫    全てを知ると言うのは非常に苦しいものだ。 犬    お前は、全てを知っているのか? 猫    いや。      だが、お前よりは知っているつもりだ。 犬    そうかもしんねぇな。      だが、ここでいくら押し問答したって、俺は探すぞ。 猫    お前はそういうやつだ。      だから…   猫、構えて、 猫    潰す!(攻撃) 犬    (かわしながら)お前、クールなキャラで売ってるんじゃなかったのか? 猫    お前は、探して、どうする!(攻撃) 犬    (かわしながら)探してみないと分からんな。 猫    きっと、お前はそれを放り出す!(攻撃)放り出したそれは、「元」それになっていく! 犬    (かわして)分からないだろ! 猫    人はずっとそうやって生きてきていくんだ。「元」を生み出しては捨てて生きていくんだ!      お前だけが例外であるはずが無い! 犬    お前はいつから哲学者になった!それとも教祖か? 猫    うるさい! 犬    おい、猫! 猫    なんだ、犬! 犬    不意打ち。   犬の攻撃を、猫、受け止める。 猫    好きだな。不意打ち。 犬    ドッグフードよりはな。 猫    俺も、キャットフードよりは好きだ。 犬    珍しく気が合うな。 猫    反吐が出る。 犬    そう言うなって、   犬、猫の腹部を攻撃。猫、うずくまる。 犬    これで、俺の一勝だな。   犬、去る。恨めしそうにそれを見る猫。   猫、吐き捨てるように。 猫    どうして、分からない…   暗転 3/1   犬と猫の回想。   犬、猫、それぞれ別の空間で過ごしている。   まっさらの王国軍、第八師団、第二部隊、第三小隊、死体処理班第一班と第三班の風景。   それぞれ、架空の人物達に話しかける。 犬    よう、ポチ。 猫    ああ、ニャンコ。 犬    今日も生きてるな?俺達。 猫    今日も生きてるぞ。俺達。 犬    ホラ、隊長のお出ましだ。 猫    隊長が来たぞ。敬礼!   犬、猫、整列をして敬礼をする。   この敬礼、なんか変である。 犬    5! 猫    6! 二人   っします!(お願いします)   隊長が去っていく。   犬、おもむろに敬礼をして。 犬    この敬礼、なんか変だな。 猫    ああ… 犬    この隊もずいぶんと減ったな。 猫    15人が、いまや6人か。 犬    今日も、仕事、明日も仕事。 猫    嫌な仕事とか言うな。 犬    ま、俺もお前も、地獄行きは確実だな。 猫    俺も好きでやってるわけじゃないけどな。 犬    とにかく、仕事は仕事。 猫    今日も埋めるぞ。人。 犬    今日も掘るぞ。墓。   二人、スコップを担ぐ、   遠くで笛の音。 犬    警笛? 猫    まずいぞ! 犬    何で、死体処理班なんか攻撃して来るんだよ! 猫    ぶつくさ言ってないで、      来るぞ!   戦闘開始。   犬、猫、それぞれ架空の敵と戦う。   剣とスコップのぶつかり合う音。   次々とあがる火の手。   倒れる人々。   ひとしきり戦った後。 犬    やったか? 猫    終わったな。 犬    遊撃隊だったか。 猫    相手が少なかった分、まだ良かったか。 犬    おい、ポチ? 猫    ニャンコ。   しかし返事は無い。倒れている相棒を見つけて駆け寄る二人。 犬    ポチ! 猫    ニャンコ! 犬    ホラ、今日も明日も掘るぞ。 猫    ホラ、今日も明日も埋めるぞ。 犬    自分の掘った穴に入りてぇのか! 猫    お前は埋める側の人間だ!お前が埋まってどうする! 犬    縁起でもない事言うんじゃない! 猫    何が遺言だ! 犬    「死に際のお願い」でも同じことだろうが! 二人   かわいく言ったってダメだ! 猫    俺は埋めないからな! 犬    あれは俺の掘った穴だ!お前は入れない! 猫    ニャンコ? 犬    ポチ? 二人   おい!こら!      先に逝くなって言ってるだろう!!   むなしく木霊する叫び。   その後、二人、同時に地面にこぶしを突き立て、ため息をついて 二人   仕方ねぇな… 猫    俺が埋めてやる。 犬    俺の穴だ、気持ちよく眠れよ。   二人、それぞれの相棒を抱えて、去る。    3/2   チビ達、男、「無限回廊の洞窟」へ行く道中 チビ2  一つだけ、聞いて良いか? 男    なんだ? チビ2  名前。 チビ1  そういや、聞いてなかった。 男    俺には名前が無い。      呼びたければ、勝手に名前をつけて呼ぶが良い。 チビ2  呼ぶが良いって…      じゃあ、ポチ。 チビ1  ニャンコ! 男    もっと、まともな名前は無いのか? チビ2  じゃあ、あんたもチビにする? 男    どうにでもしてくれ。 チビ1  考えてるから、シンクって事で、どう? チビ2  シンク…ねぇ。 チビ1  不満? チビ2  別に。 男    決定したみたいだな。 チビ1  シンクに決定。 チビ2  台所みたいな名前だな。 チビ1  あんたは文句しか言わないのね! チビ2  俺の言った事が文句にしか聞こえないんじゃないのか? 男    痴話ゲンカならよそでやってくれ。 チビ達  痴話ゲンカじゃない! 男    じゃあ、夫婦漫才だ。 チビ2  誰が夫婦(めおと)だ! 男    お前とお前。 チビ1  ちょっと、止めてよ。 男    じゃあ… チビ達  考えるな! 男    …じゃあ、散歩。   男、散歩に行く。 チビ1  シンクってさぁ、よく散歩行くよね。 チビ2  歩いてるほうが考えがまとまるって言う人もいるからな。 チビ1  そんなもん?チビ チビ2  そんなもん。チビ チビ達  チビってゆーな! チビ1  あたしたち、どうしてチビって呼び合ってるのかね。 チビ2  そりゃ、チビって名前だからな。 チビ1  名前がチビだからって、本当にチビにならなくても良いのに… チビ2  もしかしたら、チビになったから、チビって名前にしたのかもしれないぞ? チビ1  安易な親だね。   犬、やってくる。 チビ2  あ、犬。 犬    確かに俺は犬だが、お前にはなんだか呼ばれたくねぇな。 チビ2  何で? 犬    何でも。 チビ2  ケチ。 犬    ケチで結構。 チビ1  で、また掘るの? 犬    ライフワークだからな。   犬、掘り始める。 チビ2  楽しいか? 犬    そうでもない。 チビ1  楽しくないのに、掘るの? 犬    何故と聞くんだろう。 チビ1  ご名答。      どうして? チビ2  ライフワークだからだ。 犬    そうだ。 チビ1  何かを探しているようだけど? 犬    何も探していない。 チビ1  「はずれか」とか言っていたし。      本当は何か探してるんじゃないの? チビ2  良い洞察力だ。チビ。 チビ1  探偵になれるかな?チビ。 チビ2  身長制限でダメだな。 犬    仕事の邪魔だ、アッチ行ってろ。 チビ1  そこで、このあたしを遠ざけようとする。      怪しい。 犬    怪しくもなんとも無い。 チビ1  やっぱり何か探してるんでしょ。 犬    … チビ2  分かりやすいやつだな。 チビ1  吐いちゃいな。そうすりゃ楽になるぞ。      カツ丼食うか? チビ2  何のあれだ? 犬    …俺が探してるのは、最後の宝物だ。   犬、それだけ言って、去る。何とはなしに追いかけるチビ達。 3/3 猫、昔を思い出している。 猫    嫌な事思い出したな。      お前は、アッチで元気でやってるか?      そう、そうか…   男、それを聞いていた様子。 男    独り言か、気持ちの悪いやつだな。 猫    誰だ、お前は。 男    ただの男だ。さっき、シンクとか言うへんてこな名前をつけられた。 猫    シンク? 男    お前は、猫だな。 猫    ああ、その通りだが、 男    まっさらの王国軍、第八師団、第二部隊、第三小隊、死体処理班第三班に所属していたな。 猫    俺が有名なのか、お前が変態なのかはともかくとして、その通りだ。 男    では、これを   男、猫に一枚の紙切れを渡す。 猫    これは? 男    見れば分かる。 猫    (内容を見て)これは…! 男    協力してもらいたい。お前の力が必要だ。 猫    …分かった。 男    では、ここに行ってくれ。 猫    ここは? 男    行けば分かる。   男、猫別れる。 3/4   別の空間   犬、相変わらず掘る。どこまでも掘る。 犬    お前は絶対それを放り出す。か…      そうかもしんねぇな。 男    お前はそう思いたくないのだろう? 犬    誰だ、あんた? 男    シンクだ。 犬    台所みてぇな名前だな。 男    さっき、つけられた。 犬    で、何か用か? 男    犬、だな。 犬    俺も有名になったもんだ。      それとも、あんた、ストーカー? 男    (無視して)まっさらの王国、第八師団、第二部隊、第三小隊、死体処理班第一班に所属していたな。 犬    ストーカーだな。 男    これを…   男、犬に紙切れを渡す。   犬、それに目を通して。 犬    あんた、おもしれぇもん持ってるじゃん。 男    協力して欲しい。 犬    何をするのか知らないが、分かった。 男    ここに書かれている事をして欲しい。 犬    (読んで)…ああ、楽勝だろ。 男    意外に、難しいかも知れん。 犬    なんか言ったか? 男    何でも、無い。 犬  協力する前に、一つ。 男    何だ? 犬    俺は、それを見ることが出来るのか? 男    おそらく、出来る。   男、去る。犬、不敵な笑みをうかべて 犬    よし、やるか!   犬、走り去る。 3/5   チビ達、おなかを空かせている。 チビ1  今日って、何の日だっけ? チビ2  魚の日。 チビ1  魚、取りに行く元気、ある? チビ2  無い。 チビ1  炭水化物の日にしちゃおうか? チビ2  炭水化物、何かある? チビ1  パンが少々。 チビ2  おかずは? チビ1  パスタが少々。 チビ2  他は? チビ1  無い。 チビ2  嘘つけ。あっただろ、食用ミミ… チビ1  無い!無い!無い! チビ2  パスタに混ぜてやろうか… チビ1  やめて、 チビ2  じょーだん、じょーだん。 チビ1  それにしても、帰ってこないね、シンク。 チビ2  帰ってこないな、シンク。   男、帰ってくる。 チビ達  シンク! 男    どうした? チビ2  腹減ったんだぞ!早く帰って来いよ! チビ1  ずっと待っていたんだから。 男    夕飯か…      先に食べてもらっても良かったんだが、 チビ2  ダメダメ、食事はみんなでっていうのが決まりなんだから。 男    そうか? チビ1  今日は、魚の日だったんだけど、      魚、無いから炭水化物の日ね。 男    魚なら、釣ってきた。 チビ2  釣って来た? チビ1  シンク、釣りに行ってたの? 男    ああ、魚なら腐るほどある。 チビ達  よっしゃあ! 男    中には腐ってしまったものもある。 チビ達  をい。 男    中には腐っても生きている魚もいる。 チビ2  ダメな魚だな。 チビ1  そういう問題か? 男    食べたら、出るぞ。 チビ1  夜なのに? 男    大丈夫、夢見心地の無限回廊の洞窟はもうすぐだ。   暗転 4/1   次の日の朝、チビ達、男を捜している。 チビ1  シンクー! チビ2  台所―! チビ1  台所じゃないって言ってるでしょ。 チビ2  ポチー! チビ1  ニャンコー!   返事は無い チビ2  いないな。チビ チビ1  いないね。チビ チビ2  お前が寝るから。 チビ1  あんたが寝るから。 チビ達  お前(あんた)が先! チビ1  …いや、どっちが先でも、寝たことには変わりないしね。 チビ2  そうだな。 チビ1  先に行ったのかな?シンク。 チビ2  先走る案内人だな。 チビ1  どうする? チビ2  地図、貸して。 チビ1  どうするの? チビ2  読むように努力してみる。 チビ1  止めときなって、どうせ迷うんだから。 犬(声) そうだぞ。どうせ迷うんだ。   犬、出てくる。 チビ2  あ、犬。 犬    お前ら、無限回廊の洞窟に行くんだろ? チビ2  残念でした、正式には、 犬    夢見心地の無限回廊の洞窟だろ? チビ1  どうしてそれを? 犬    勘だよ、勘。 チビ1  勘で分かる分けないでしょ? 犬    そりゃそうだ。      ま、お前らは行かなきゃいけないんだろ?案内役が必要じゃねぇのか? チビ2  案内してくれるのか? 犬    案内しなくても良いのか? チビ1  出来ることなら、して欲しい。 犬    じゃ、決定だな。      ついて来い。 チビ2  と、その前に。 犬    何だ? チビ2  腹、減らない? チビ1  そういえば… チビ2  今日は、山菜の日だっけ? チビ1  違いますぅ。肉の日です。 チビ2  だって、肉、無いだろ チビ1  あるわよ!   と、チビ1、ビシィッっと、犬を指差す。 犬    へ?俺?      いやいや、待てよ。 チビ2  いやいや、待てない。 チビ1  中国では犬、食べるって言うし。 犬    何の話だ! チビ2  犬鍋かぁ。 チビ1  生でもいけるかもよ? 犬    待て待て、俺はそもそも犬じゃない! チビ達  犬でしょ! 犬    犬は犬だが、      じゃなくって! チビ達  犬でしょ!それ以上でもそれ以下でもないでしょ! 犬    俺は人だ! チビ達  嘘つけ! 犬    嘘じゃないっ! チビ2  言われてみると、犬顔じゃない… チビ1  そういう問題? 犬    そういう問題にしておこう。      な? チビ1  いや、騙されちゃダメ。      これは、人面犬よ! 犬    おういっ! チビ1  チビ!包丁用意! チビ2  あいよ! 犬    ポチ…俺、もうだめかも知んない。   と、そこへ、可愛らしいうさぎが…(無対象ね。) チビ1  チビ、あれ。 チビ2  可愛らしいうさぎだな。 チビ1  仕留めて!早く! チビ2  あいよ。      肉ぅぅぅぅぅぅぅ!!!!   チビ2、うさぎを追って、はける。   ちょっとだけ、生々しい音。 犬    助かったぁ… チビ1  明日も肉の日決定ね。 犬    え? チビ1  ね?肉。 犬    違うといっているだろおぉぉ! チビ1  と、いうのは冗談で、 犬    ホントに冗談か? チビ1  本当にして欲しい? 犬    嫌、結構。 チビ2(声) おーい、チビぃ!        うまそうなウサギだぞぉ! チビ1  って言ってることだし。 犬    あ、ああ。   二人、うさぎを食らいに行く。 4/2   無限回廊の洞窟にて、猫、先に着いている。 猫    気味の悪いところだな。 男    人の別荘にケチをつけるもんじゃない。 猫    誰の別荘だって? 男    俺の第四の別荘だ。 猫    別荘なんて良いもんじゃないだろ。 男    夏は涼しいぞ。冬は寒いがな。 猫    そうだろうな。      で、俺は何をすればいんだ? 男    禅問答。 猫    あ? 男    お前が生きることで捨ててきたモノを投げかけて欲しい。 猫    どういうことだ? 男    お前はどうして、埋める?      お前のしてきたことは何だった? 猫    …お前は、どこまで知っている? 男    「元」同業者の事だ、知っていても不思議ではない。 猫    じゃあ、お前も? 男    昔のことだ、   男、どこかへ行こうとする。 猫    どこへ行く。 男    何かと、忙しいんでな。これで失礼する。      頼んだぞ。禅問答。 猫    …ああ。   男、去る。猫、見送って。 猫    俺のしてきたこと…か… 男(声) そういえば、言い忘れていたが、      最後の宝物って知っているか? 猫    ああ、世界中の権力者どもが訳も分からず狙っているって言う、あれだろ?      俺も、見たことはないが、それがどうかしたか? 男(声) あの戦争も、最後の宝物をめぐって起きたことは? 猫    ガキでも知ってる。 男(声) …ここにある。 猫    何?ここにあるってどういうことだ?      おい!答えろ!   しかし、返事はない。 猫    ここにある?      …まさか。   猫、男を追って去る。 4/3   犬、チビ達、ようやく「夢見心地の無限回廊の洞窟」にたどり着く。 犬    着いたぞ。 チビ1  これがその… チビ2  夢見心地の無限回廊の洞窟か? 犬    そうだな。      俺も、来るのは久しぶりだが、 チビ2  前にも来た事あるのか? 犬    ああ、前の戦争のときにな。 チビ1  宝探しに? 犬    んな時にのんきに宝探しするのはお前らくらいなもんだ。      兵士としてだよ。      ここでキャンプをした。 チビ2  楽しかったか? 犬    バーベキューは無かったが、キャンプファイヤーはあったぞ。      見張り用の焚き火だがな。 チビ1  マイムマイムとか踊った? 犬    世界中の人がお前らみたいのばっかりだったら、少しは平和なのにな。 チビ1  今、馬鹿にしたでしょ? チビ2  小馬鹿にしただろ。 犬    いや、誉めてんだよ。      しゅごいしゅごい! チビ2  今のは、完全に馬鹿にしてるな。 チビ1  そうだね。 犬    よく分かったな。 チビ2  おい、チビ。 チビ1  何?チビ。 チビ2  保健所に連絡! チビ1  ラジャー! 犬    おい!こら! チビ2  するわけ無いだろ?      ここまで案内してくれた恩人に対して… 犬    してる!思いっきりしてる!   チビ1、伝書鳩を使って保健所に連絡。 チビ1  って、じょーだんじょーだん。 犬    今、鳩使って送っただろうが! チビ2  何て書いた? チビ1  犬の死体が落ちてます。 犬    おい! チビ1  大丈夫だって、あの鳩、ただの鳩だから。 犬    本当だろうな… チビ1  一つくらい芸が出来るかもしれないけど。 チビ2  まっすぐ保健所に行くとか? チビ1  そしたら、あたし、嘘つきになるわね。 チビ2  そうだな。 チビ1  嘘ついたら針千本飲まされるかな。 チビ2  飲まされるだろうな。   チビ達、犬を見る。 チビ1  (犬を見たまま)あたし、痛いの、嫌だから… チビ2  (犬を見たまま)そうだろうな。 チビ1  (犬を見たまま)協力してくれる? チビ2  (犬を見たまま)もちろん。 犬    やめいっ!そんな腐った協調関係はっ! チビ2  「嘘から出た誠」って言う便利な言葉もあることだし。 犬    便利に使うな! チビ1  あたしのこと愛してないの!? チビ2  一緒にここまで来たじゃないか!? 犬    わけ分からんわ! チビ1  あたし、捨てられたのね… 犬    この際、命が助かるならどうでも良いです。 チビ1  他の女に取られるくらいなら、いっそこの手で! 犬    嘘ん! チビ2  俺も、手伝う! 犬    手伝うな、そんなもん! チビ1  じゃあ、しょうがないね。      えっと、次はー 犬    頼むから考えないでくれ… チビ1  ねえ、チビ。 チビ2  何だ?チビ。 チビ1  本当にここにあるのかね。 チビ2  行ってみないと分からん。 犬    (ホッとする。) チビ1  行く前に腹ごしらえしない? 犬    待てい! チビ1  というのは冗談で、      ちょっと不気味だよね。 チビ2  ちょっとどころじゃなく、不気味だ。 チビ1  本当に入るの? チビ2  入るしかないんじゃない? チビ1  先、入りなよ。チビ。 チビ2  お前が入れよ。 チビ1  チビが入ればいいじゃん。 チビ2  お前だってチビじゃん。   チビ達、不毛な言い争いをしている。 犬    おい。チビ女 チビ1  何よ、うるさい! 犬    足元にミミズ。 チビ1  ちょっと、早く言ってよ!   といいながら、洞窟の中へ駆け込んでいく。。   犬、大笑い。 チビ2  でミミズはどこ? 犬    いるわけ無いだろ?      う・そ、      さ、俺達も行くぞ。   チビ2、犬、洞窟の中へ。   暗転。 猫(声) 生きることで、捨ててきたモノ…か。      馬鹿馬鹿しい… 5/1   チビ1、悪態をつきながら洞窟の中を歩いている。   チビ1  馬鹿、阿呆、コンチキショー、クサレ、チビ、犬風情、トンマ、ごくつぶし、親不孝者…   猫、現われる。 チビ1  あ、埋める男。 猫    名前は、猫だ。 チビ1  猫?血統書のついてなさそうな猫ね。 猫    お前は、チビだな。 チビ1  それは、名前の事をいってるの?それとも見た目のこと? 猫    名前のことだ。 チビ1  それはどうも      チビですが? 猫    一つ、聞きたい。 チビ1  あたしも聞きたい。 猫    何だ? チビ1  頭の悪いチビと、馬鹿犬探してるんだけど。      知らない? 猫    犬?      男か? チビ1  男ね。体はでっかいけど、心はちっちゃい男。 猫    ぁいつ… チビ1  あなた?馬鹿犬と知り合い? 猫    …こちらの質問に移ろう。 チビ1  ケチ。 猫    (無視して)例えば、お前が教師という職業につきたいとする。 チビ1  教師になんかなりたくない。 猫    例え話の通じないやつだな。      お前のなりたいものは何だ?      憧れでも希望でもかまわない。 チビ1  幸せもん! 猫    その願いが壊れそうなとき、お前は何をする。 チビ1  壊れない。 猫    これが禅問答か? チビ1  何よ。 猫    いや、こっちの話だ。      壊れそうなときと、仮定して話を進めよう。 チビ1  そんなことはありえない。 猫    (ため息)…どうしてだ。 チビ1  あたしが幸せもんになるって決めたら絶対なるの! 猫    残念だが… 男(声) 残念だが、この世界に幸せはそうそう落ちてない。      それに、絶対という言葉もこの世界には存在しない。 チビ1  シンク? 猫    ? 男(声) 今一度聞く。お前の幸せが壊れそうなとき、お前はどうする。 チビ1  壊れない。 男(声) どうして言いきれる? チビ1  馬鹿でチビで酒癖悪くて女にだらしなくていつもいつも思いつきで行動するようなやつでも、      いないよりはマシでしょ。 男(声) それが、お前の幸せか…ならば…      それを潰すとしよう。 チビ1  潰す?何?      ちょっと!シンク!訳わかんないよ。シンク!   返事は無い。 猫    潰されるぞ。お前の幸せ。 チビ1  そんな事させない!   猫、ゆっくりと構える。 猫    ここは通させん… チビ1  残念でした。進むべき道は前ばかりじゃないの!   チビ1、きびすを返して、走り去る。   猫、舌打ちして、追う。 5/2   犬、チビ2、チビ1を探している。 チビ2  チビー! 犬    チビー! チビ2  呼んだか? 犬    お前じゃなくて、もう一人をな。 チビ2  まぎらわしいな。   チビ2、チビ1を探す。   犬、チビ2の背後でスコップを振りかざす。 チビ2  不意打ちとは卑怯な! 犬    な…!?      気付いていたのか… チビ2  まあね。 犬    あんた、ただのチビじゃないな。 チビ2  酒乱もつける? 犬    …よく気付いたな。 チビ2  もっと誉めろ、うやまえ、たてまつれ。 犬    ああ、誉める、うやまう、たてまつる。      …だが、いくら気付いたところでっ!   犬、スコップをチビ2に振り下ろす。 犬    かわせなければ、意味が無い! チビ2  うおう! 犬    って、かわしやがった。 チビ2  不意打ちとは卑怯な! 犬    二度あることは三度あるぅ! チビ2  何で、殴ってくるんだよ! 犬    確かめるためだ! チビ2  何を!? 犬    お前が「最後の宝物」にふさわしいかどうかだ! チビ2  最後の宝物って何だ! 犬    とぼけるな! チビ2  とぼけてなんかいない!   チビ2、犬のスコップを受け止める。 犬    お前は、宝物を探しているんじゃなかったのか…? チビ2  探しているけど、最後の宝物なんてものは知らない。 犬    最後の宝物、それはあるはずもなく、ないはずもない。 チビ2  それは、ある可能性が少しあるってことだろ。 犬    どこまで行ってもポジティブなやつだな。 チビ2  それだけがとりえだ。 犬    …質問する。答えろ。 チビ2  何だ? 犬    お前には、大切なものがあるか? チビ2  …ある。 犬    命を賭してでも、守りたいものか? チビ2  ああ。 犬    本当に好きなんだな。 チビ2  しつこいぞ。好きだっていっているだろ。 犬    どのくらい好きだ? チビ2  好きかどうかも分からないくらい好きだ。 犬    よく分からない答え方だな。      まあ、いい。合格!   犬、一枚の紙切れを渡す。 チビ2  これは? 犬    最後の宝物のありかだ。 チビ2  俺はそんなものには興味ないんだって。 犬    そんなものとは何だ!      最後の宝物って言やぁ、国王、貴族、諸々の権力者でさえも手に入れたいと思うような代物なんだぞ! チビ2  それだったら、国王、貴族、諸々の権力者にくれてやればいいじゃん。 犬    くれてやることは出来ない。 チビ2  どうして? 犬    言っただろう。      最後の宝物は、あるはずもなく、ないはずもない。   チビ2、犬、走り去る。 5/3   チビ1、走っている。暗闇の中を闇雲に走っている。 チビ1  有名無実なあなたへ      世界中に散らばったあなたへ      あるはずもなく、ないはずもないあなたへ      宝物…      あたしはあなたに会いたい!   猫、追いつく。 猫    いくら頑張って走ったところで、無駄だ。      歩幅が違う。 チビ1  うるさい! 猫    馬鹿でチビで酒癖悪くて女にだらしなくていつもいつも思いつきで行動するようなやつがお前の幸せか? チビ1  ヒトの台詞一言一句漏らさずに覚えているのって、感じ悪いわよ。 猫    そいつが、お前の幸せか? チビ1  どうやらそうみたいね。 猫    お前は、世界の何を知ってる。 チビ1  聞いてばっかりね。 猫    何を知ってる。 チビ1  何も知らないし、でも、全てを知っている。 猫    …無知は、罪だ。   猫、構える。 チビ1  どうして、そう、邪魔しようとするかなぁ? 猫    それが俺の仕事だ。 チビ1  それと、何?      「無知は罪」って 猫    お前も聞いてばかりだ。 チビ1  ああ、そうね。で? 猫    …俺は先の戦争で、死体処理班にいた。      守るべきものを守りたいと思って、志願兵としてな。 チビ1  あいつもそんなこと言ってた。 猫    あいつ? チビ1  宝物を埋めたやつ。 猫    そうか…      で、そのあいつはどうだ?      守れたのか? チビ1  もうちょっと、神様のご加護があっても良かったんだけどねぇ。 猫  死んだのか。 チビ1  そういうこと。 猫    …俺は、無知だった。      現実をもっとよく知るべきだった。 チビ1  あいつもね。 猫    守るべきものを守りたくても、毎日毎日、死体を埋めるばかり、      それでもいつか来るべきときは来ると思って埋め続けていた。 チビ1  来たの?そのときは。 猫    来た。      だが、守れなかった。放り出した。   チビ1、そーっと猫の後方に移動する。   で、去っていく。 猫    それらは、「元」守りたかったものになってこの下に埋まっている。      力のない夢や理想など、「元」になって埋まってしまう。それが現実だ。      お前はそれを知っているというのか?      ん?      ちっ!クソガキ!   猫、チビ1を追って、去る。 5/4   チビ1、走って出てきて、走って去る。   猫、チビ1を追うように出てきて、チビ1の去った方向でない方向に去る。   男、チビ2を探して走る。立ち止まって、 男    …潮時かも知れんな。   男、走り去る。   犬、チビ2を連れて、走る。 犬    どこまでも、他人任せなやつだな。 チビ2  だから、地図読めないんだって。 犬    貸せ、 チビ2  何を? 犬    お前が持ってる地図。   チビ2、最初から持っていた宝物の地図を犬に渡す。   犬、二つの地図を比べて、 犬    ビンゴ…      行くぞ!   犬、チビ2を連れて、走り去る。   チビ1、走っている。男、反対側から走ってくる。   トップスピードで二人、すれ違う。すれ違いざまに、お互いを見る。 チビ1(声) まだいける!   犬とチビ2、走っている。 チビ2  何だよ、ビンゴって? 犬    見ろ!   犬、チビ2に二つの地図を渡す。   犬、チビ2、走り去る。   猫、走っている。   男と鉢合わせして、 猫    あんたか… 男    お前の禅問答。答えは出たか? 猫    答えは、すでに出ていたのかも知れんな。 男    宝物は、あるはずもなく、ないはずもない。 猫    何だ? 男    その回答に対する解説だ。   男、走り去る。猫、立ち止まって、 猫    あるはずもなく、ないはずもない。      …そうかも知れんな。   猫、男を追って、走る。   チビ1、走っている。   チビ2、犬と鉢合わせ。 チビ1  チビ! チビ2  チビ! チビ1  逃げるよ! 犬    逃げるって、どういうことだ? チビ1  シンクが、壊すって、 チビ2  何が言いたいんだ? チビ1  幸せを、チビを、 犬    さっぱりだな。 チビ1  いいから逃げる!   と、そこへ、男と猫、やってくる。 男    久しぶりだな。 チビ2  ああ、久しぶり、 チビ1  チビ、逃げるよ。(と、きびすを返す。) 猫    その先は、共同墓地になっている。 男    潰させてもらうぞ。 チビ1  そんな事させない。 チビ2  どういうことだ? 犬    俺も聞きたい。 チビ1  あたしも分からない。      ただ、シンクが、あたしの邪魔をどうしてもしたいんだって。 男    そこまでの必然性はない。 チビ1  だったら、邪魔しないで。 チビ2  話が、いまいち見えないんだけど。 犬    右に同じ。 チビ1  シンクが、チビ、潰すって、      理由、分からない。 チビ2  俺はお前の言ってることが分からん。 チビ1  こういうことよ!   チビ1、チビ2に殴りかかる。   チビ2、それをかわす。 チビ2  あぶねぇな。 チビ1  こういうことよ。 チビ2  危ないのか? チビ1  このままだと、危険が危うい。 犬    言ってることは分からんが、感じ取ることは出来たぞ。 チビ1  良かった… 犬    とりあえず、追い詰められるまで、逃げればいいんだな? チビ1  (うなづく)   チビ達、犬、逃げる。 猫    追わないのか? 男    あせることもない。      俺の目的は、追い詰めることじゃない 猫    そうか、そうだったな。   猫、去る 男    それに、ただ守っているわけでもない。   暗転 6/1   共同墓地、先の戦争での戦没者を埋めている。   犬、一つ一つの墓を愛しそうに見ながら、 犬    ダックス…、ワンコ…、チワワ…、      …そして、ポチ。 チビ2  知り合いか?? 犬    仲間だ。 チビ1  みんな、死んだんだ… 犬    俺達はな、墓ぁ掘ってたんだ。      死体処理班だからな。      まさか、自分の掘った穴に入っちまうとはな… チビ2  感傷に浸っている時間もそうないんだろ? 犬    そうだったな、   犬、地図と見比べて、 チビ1  何? チビ2  どうやらここにあるらしい。 チビ1  宝物が? 犬    最後の宝物だ。      あった、ここだ。   犬、掘ろうとする。 男    待て。      潮時だが、まだ早い。 チビ達  シンク! 猫    犬、 犬    猫、 猫    最近はよく会うな。 犬    うんざりだ。 チビ1  シンク、どうして? 男    それは、どうして自分の邪魔をしたいのかということか? チビ1  そう。 男    俺は、試さなければならない。 チビ1  試すって、何を? 男    お前たちを、最後の宝物を手に入れるにふさわしいかどうか チビ2  だから、俺達が探してるのは、最後の宝物じゃないんだって、 男    最後の宝物だ。   男、構える。 犬    どうやら、やっこさん、是が比にでも邪魔したいみたいだぞ。 チビ1  そういうことなら、      チビ! チビ2  何か、いまいち飲み込めてないんだけど… 犬    無知は罪だってよ。 猫    お前が言うな。反吐が出る。 チビ1  壊れるんじゃないよ。酒乱のチビ。 チビ2  何言ってるのか分かんないな。気分屋のチビ。 チビ達  チビってゆーな!   男、動く。すばやく、チビ2に接近。一撃を加えようとするが、チビ2、それを避ける。   猫、男に加勢しようとするが、犬、猫の前に立ちふさがる。 猫    お前はいつもいつも俺の邪魔をする。 犬    それはコッチの台詞だ。   犬、猫に攻撃。猫、かわす。   男、チビ2を執拗に攻撃、チビ1、男に攻撃。それをかわして、執拗に攻撃。   そのまま、ハケる。   犬猫の争い。 猫    人はやっぱり想い、悩む。 犬    考えすぎなんだよ! 猫    お前が、モノを知らないだけだ! 犬    感じるだけじゃダメなのか? 猫    お前が掘った穴には何が入っている! 犬    「元」人だ! 猫    これからも、お前が掘った穴には「元」人が入る。 犬    分からないだろ! 猫    「元」何かが入る!      「元」夢!「元」理想!「元」希望! 犬    宝物だったら素敵だとか思わねえのか? 猫    お前はいつから、ロマンチストになった? 犬    戦争が終わってからだ!   猫、ぴたりと攻撃を止める。 犬    お前の言うとおり、俺が掘った穴には「元」人が入っている。      でも、その「元」人だって俺の掘った穴ん中入って、気持ちよく眠っているはずなんだ。宝物みたいにな。      そう思いたいじゃないか。 猫    それが、お前の禅問答の答えか。 犬    …そうだ。 猫    俺が埋めた、「元」人は気持ちよく眠っているだろうか? 犬    そうに違いないと思えばいい。 猫    俺は、人が「元」人になるのをずっと見てきた。      同じように、夢が「元」夢、理想が「元」理想、希望が「元」希望 犬    だから、埋めるのか?      何かが、「元」何かにならないように。 猫    何の解決にもなっちゃいないのは分かってる。 犬    分かりゃあ、いいんだよ。      じゃ、自分のすべきことも分かってるな。   犬、去ろうとする 猫    どこへ行く。 犬    決まってるだろ、お宝大事に抱えてるやつに会いに。   犬、チビ達のところへ向かう。   猫、少し考えて、犬を追う。 6/2   男、チビ達、戦いながら出てくる。   戦いながら。 男    潮時だな。 チビ1  なら、さっさと諦めなさい。 男    ならば、問う!      チビという名の男! チビ2  何だ? 男    お前の願いは何だ。 チビ2  (少し考え)俺にしか手に入れようのない人並みの幸せ! 男    …   犬、猫、やってくる。 犬    よう、守護者さん。 男    …来たか。      潮時だな。お前たち、全員に問う。 四人   ―何だ? 男    この世界では、死んだように生きるのも目一杯・精一杯生きるのもさしたる違いはない。      ならば、疲れないほうがいいだろう? チビ達  いや、違う。 男    ? チビ達  生きてる感じのするほうがいい! 犬    同感だ。 猫    確かに。   男、ひとしきり笑う。 男    …犬。 犬    あいよ。 男    掘れ。 犬    あんたに命令されなくたって掘りますけどね。   犬、掘る。木箱が出てくる。   犬、「ほれ」とチビ達に渡す。 チビ2  開けるぞ。   チビ2、木箱を開ける。   チビ2、嬉しくなって笑う。 チビ1  何?   チビ1、覗き込む。   チビ1、嬉しくなって笑う。   犬、猫も覗き込んで、 猫    これが最後の宝物か、 犬    こりゃあ、いいや。   チビ2、夢・理想・希望などと書かれた紙を見せていく。 男    ここには世界中の人々が、「元」何かになりそうなものを置いていく。      それは、「元」夢になりそうな夢だったり、「元」理想になりそうな理想だったりする。      あいつは、ライフワークを入れたらしい。   チビ2、最後の紙切れをーーそこには「芝居」と書かれているそれを読み上げる。 チビ2  まっさらの王国、第八師団、第二部隊、第三小隊、小隊長「もう一人のチビ」ここに眠る。 犬・猫  (大爆笑) チビ1  どうしたの? 犬・猫  ライフワークだ。   犬・猫、さらに笑う。 6/3 男    先の戦争で、俺は一人の男に会った。      彼は、俺に一つの頼みごとを残して逝った。      チビと言う名前の二人組みに、「元」何かと今あるべきものの違いを教えて欲しいと、      こんな時代だ。「元」何かは溢れるばかりだ。      溢れた「元」何かは放り出されて、腐っていく。      宝物のようにしまわれるものは数少ない。      でも、きっとあいつらなら、と彼は言った。      それが、俺の真実だ。   暗転。 エピローグ。   犬、掘っている。   猫、埋めている。 犬    相変わらず… 猫    ライフワークだからな。 犬    そうだったな。   別の空間にて、男、考えている。 男    俺がよりよく生きるためにすべきことは、      よりよく生きるために何をすべきかを考えることだ。      それが、俺のライフワークだからな。   別の空間にて、チビ達。   いとおしそうに宝物を置く。   そして、二人、去る。全てのものを愛しそうに見ながら。   宝物は、静かに眠っている。 幕